アニマルセラピーを考える

アニマルセラピーを考える

動物とのふれあいによる人が得られる癒し効果は、ここ数年で一気に広まって参りました。AAT(アニマル・アシステッド・セラピー)やAAA(アニマル・アシステッド・アクティビティー)という活動です。日本では実際にはAAAの活動が多く占めています。施設に飼われている犬や猫達も多く見られるようになりました。AAAでは、獣医師が主体となったり、個人が積極的にボランティアの一環として様々なホームなどに犬や猫と一緒に訪問し老人や障害者の心を癒すというものです。このような活動はもちろん素晴らしいものです。
しかし、現状をしっかり考えてみましょう。愛犬の性格がこのような活動に向いているかしっかりと適性を確かめて行わなければ愛犬に無理を強いることになりかねません。ビーグルと暮らす飼い主さんは、一度このようなボランティアに参加しましたが、愛犬のストレスを感じこの子には向かないと判断しました。
AAAが、どんな犬でも出来ると思うのは危険です。
以下に毎日新聞での特集記事をご紹介しましょう。日本でAAAの活動をされている飼い主さんに、日本のAAAの活動がもっと素晴らしいものとなるよう、是非読んでいただきたい内容です。(2002/04/16)(LIVING WITH DOGS)


「今週の異議あり」

安易なアニマルセラピー (日本介助犬アカデミー専務理事 高柳友子氏)

老人施設や障害者施設で入所者と動物がふれあう機会をつくることによって、癒しを得たり症状の改善を図るアニマルセラピー。有効性が実証されたこともあり、全国各地に広まった。だからこそ、日本介助犬アカデミー専務理事の高柳友子さん(35)は「リスクを忘れないでほしい。正しい知識を持たないと、人間と動物の双方が不幸になる」と訴える。(山田道子)

どのような問題が起こっているのでしょうか?
◆ある老人ホームでは、施設で飼育していた犬が老人をかみ、犬は獣医師に引き取られるというケースがあった。一方ある施設で飼われている犬は、入所者が勝手に餌をやるのでひどく太った。おとなしいから施設向きと思われているラブラドールリトリバーは、運動量が多く必要なのできちんと散歩させないと肥満してしまう。別の施設では、入所者が犬を傷つけたケースがあった。人間も動物も両方、被害者だ。

何故、そのようなことが起こるのですか?
◆動物が医療や福祉の現場に入っていくのは、動物が何らかの役割を持つからだ。その役割に向いているかどうかは本来、専門家が判断すべきだ。有効性ばかりに目が行って、適正判断もされず、動物のリスクに関する正しい知識もなく、動物なら何でもいればよいというようになった結果だ、

リスクについて詳しく説明して下さい
◆行動面のリスクとしては、問題行動がある。すなわち、かみつき、ひっかき、跳びつき、無駄ほえなどだ。しかし、動物が無駄に吠えることはないし、訳もなくかみつくこともないし、原因はストレスだ。家庭内でも問題行動を起こすことがあるのに、まして施設という多くの人が生活している場所は、動物に大きなストレスを与えるということを知らなければならない。中には誰にでも触られるのが大好きだったり、ボール投げは誰とでもオーケーという犬もいるが、過度なストレスを感じる動物もある。かみつかれたり、かっかかれたりすれば、身体面でのリスクである人畜共通感染症にかかる危険性も高まる。このようなリスクがなぜ生じるかというと、適切な管理がされていないことに尽きる。飼い主は絶対に、動物から目を離してはならないし、犬であればリードを放してはならない。

アニマルセラピー先進国の欧米の状況は?
◆欧米でも老人施設や障害者施設で犬や猫を飼うことがはやったことがあったが、今はむしろ、飼うのはやめようという方向だ。マイナスの方が多いからだ。うまくいってるのは、施設の職員が自分のペットを毎日連れてくるようなケースで、責任の所在、飼い主が明確だからだ。動物の訪問活動、セラピー活動自体は増えている。それは「ペットの適性が見極められる。飼い主はボランティアとして参加したいという気持ちがあり、ペットの行動管理まで勉強する。施設側もそれ以外はお断り」と言う方向でだ。

日本ではまずどうしたらいいでしょう?
◆動物にはリスクがあるという当たり前のことをもう一度思い出して下さい。動物を受け入れる施設側の責任者は入所者の安全を第一に考え、何かあった時には責任を問われることを常に念頭に置く。動物について勉強するのは義務だ。ペットを連れて施設を訪問しようという人には、ペットが本当に喜んでいるかどうか判断するのは飼い主しかいないと言いたい。ペットにストレスがかかり、入所者を傷つけたら、ペットは処分されてしまうこともあるのだ。そもそも日本では動物の適性評価がおざなりだ。動物行動学に基づく適性の客観的評価が必要だ。幸いなことに、アメリカで動物行動学を勉強して日本で知識を広める人は増えてきているので、環境は整いつつあるとは思う。

ところで、捨て犬を自治体から譲り受けて訓練し、児童施設や老人施設に贈る運動を始める動きがあります。今国会で成立予定の身体障害者補助犬法案をにらんで、捨て犬を補助犬に役立てようという事業を始める自治体もあります
◆期待はあるが、安易にはすすめられない。厚生労働省の介助犬の研究班で調査したことがあるが、捨て犬の原因で一番多かった理由は病気だった。従って捨て犬の利用は非常にリスキーだし、捨てられた動物は人間に心を開けなくなっていることが多いので、適性のある犬の確保は極めて難しい。
介助犬や聴導犬を捨てられた犬から選ぶことはある。その方法は欧米では確立しているし、私達も推奨して確立させたいとは思っている。しかし、その難しさには計り知れないものがある。捨て犬や捨て猫の対策は必要だし、セラピー犬や介助犬も育成しなければならないが、それらは別々の問題として対策をとるべきだ。捨てられた犬をセラピー犬や介助犬にすることを決して安易に考えてはならない。(2002/4/11)(毎日新聞夕刊より)

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日本介助犬アカデミー

 

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