動物孤児院 (99)台湾の「殺処分ではなく、避妊去勢を」運動

台湾の「殺処分ではなく、避妊去勢を」運動

ビーグル犬での実験に反対署名運動

9月中旬、台湾の台東県の田舎家で生後6週間目の子犬がイタチアナグマに咬まれた後、子犬に狂犬病の症状が出始めた。子犬は安楽死をさせたそうだ。それまでは人が狂犬病に感染したイタチアナグマに咬まれて予防注射を受けるという例はいくつもあったが、犬が咬まれたのは初めてだった。感染したイタチアナグマに咬まれた犬はどうなるのか、という実験をするために台北の農業委員会は「ビーグル犬14頭を使って狂犬病の発症を確かめる予定がある。もし、ビーグル犬に発症の兆しが見えたらすぐに人道的な立場から即、安楽死をさせる」と発表した。そのニュースが流れると、「実験したとしても結論が出るかは疑わしいと学者は言っている。ビーグル犬たちを犠牲にするのは意味がない」、「こんな実験したら世界の笑いものになるだけだ!」と実験反対運動が起き、インターネットを通して数時間内に何千人もの署名が集まった。
台湾のある獣医教授は、「狂犬病ウィルスはすべての温血動物に感染する。今更実験する必要があるのか」と意見した。
狂犬病に感染して死んだイタチアナグマは今でも台湾の中南部で時々発見されるが、ピークは過ぎたようである。子犬の発症で、犬に感染することがはっきりしたせいか、どうやらビーグル犬たちは実験を免れたらしい。

野良犬たちに狂犬病予防接種を

台湾の獣医師、ボランティア、動物保護団体の人たちは互いに協力し合って、野良犬にも予防接種をしている。
台北市だけでも5500頭の飼い主のいない犬(野良犬)がいるそうだが、9月下旬までに1329頭の野良犬への予防接種を実行した。今後は地区を決めて順番に実行していくそうだ。実行は大方が夜半から明け方にかけてなので、ボランティアの人たちの疲労は激しい。しかも、麻酔薬を塗った吹き矢を使わなければならないケースもある。
台北市では年末までに70パーセントの野良犬への接種を計画しているのだが、特に野良犬の多い川の周辺は草が高く生い茂り、探すのが簡単ではない。エサを与えに行く人たち“愛心ママ”にも協力を頼むそうだ。(野良犬や野良猫にエサを与える人たちのことを中国語で“愛心ママ”と呼ぶ。)
「殺処分ではなく、避妊去勢を」で避妊去勢を施され、チップを埋め込まれた後も、放された犬猫の管理が必要になる。たとえばフンの後始末、病気の犬をどうするのか。「“愛心ママ”のエサやりで環境は不潔になる。自分の家で養うべきだ」と“愛心ママ”を責める風潮もある。飼い主がいない=責任を取る人がいない、ことになるのだ。
そこで、避妊去勢後にチップを埋め込まれた後に放された犬400頭の「ワンちゃんたちのパパ」になった人がいる。台南市に住む、台南市流浪動物愛護協会理事長の郭順雄氏だ。郭氏は、400頭に埋め込まれたチップに「飼い主」と登録されているのだ。

売れない犬を捨てる繁殖屋

「犬を捨てないで。予防接種をすれば狂犬病の心配はないのだから」と呼びかけても、捨てる人は後を絶たない。どのシェルターも満員だ。
先日は台風の日に赤毛のプードルばかり35頭、墓地に捨てられているのが発見された。救助した人たちは、あと2、3時間遅かったら生きのびるチャンスはなかっただろうと言っていた。赤毛のプードルは、台湾のある有名な女優が飼っていることから流行したのである。
台湾も日本と同じく、繁殖に何の規制もないので、あるセレブが特定の犬種を飼い始めたとわかるとその犬種の子犬がすぐに巷に溢れかえる。日本のペットショップも悲しいが、台湾のナイトマーケットも悲しい。路上で、洋服を着せられた、それはそれは小さな子犬たち(生後3週間ぐらい?)が、ナイトマーケットが閉じる夜中の1時すぎまで陳列されているのだ。

個人のシェルターはパンク寸前

台湾の事情も日本とあまり変わらず、殺処分がある。地方自治体によっては、引き取り手のない、あふれてしまった犬猫を残酷な方法で殺処分するが、表向きは「安楽死」ということになっている。「安楽死」の事実を暴く写真などインターネットで出回っている。
この現実を見るに見かね、自分の財産を投げうって犬猫保護施設を作った人は台湾中にいる。しかし、始めは何とかなるとしても、どの施設も増えた犬猫飼育の維持対策に困窮しているのが現実だ。特に、狂犬病に感染したイタチアナグマが発見された後、捨てられる犬は急増した。地方の町では犬を毒殺する事件もあった。
個人の犬猫保護施設は犬50頭から500頭の範囲だ。荒れた空き家や小屋が犬たちの居場所だ。犬舎が清潔かどうか、どれだけのスペースに何頭の犬を収容しているのかといったことはこの際、問うまい。おなじみゴールデンレトリバー、ラブラドル・レトリバー、ジャーマン・シェパードも少なくない。流行犬の行く末である。
エサをやり続けるためのお金、予防接種をすべての犬猫にするための最低限のお金さえ底を付いた人もいる。台中市のある個人シェルターは100頭保護しており、昨年10月からは、愛護団体の「台湾動物緊急救援小組(グループ)」から毎月500キロ以上のエサを援助してもらっていたがついににっちもさっちも行かぬ状態に。愛護団体は狂犬病を含めた8剤混合の予防接種100頭分、皮膚病と胃腸炎の薬、そして10万元近く(約30万円)提供した。
中には自分は重病を患っているのに、自分の食費をけずって捨てられた犬たちを保護している中国大陸出身の中年女性もいる。収容した犬たちに食べさせるために市場に通っては鶏やそのほかの家畜の廃棄肉をもらって帰るのを日課にしている人もいる。

前述の郭氏は次のように述べる:
「動物愛護の活動は大変だ。しかしこれは私が自ら願ってしていることだ。
政府が繁殖や販売に関する法令を作って規制しないかぎり、救う方の側の苦労は増すばかりだ。それでも、勇気を持って続けていこう。
動物保護を通してわかったことがある。私はひとりぼっちではないこと、そして、愛の心を持った人は世の中、至るところにいるということだ。」

サブコンテンツ

カテゴリー

このページの先頭へ