動物孤児院 (100)ヨーロッパの天国と地獄
ヨーロッパの天国と地獄
路上犬の大量殺戮に同意したルーマニア首相
「ヨーロッパでは動物愛護意識が高い」なんていう伝説を鵜呑みにしてはならない。この欄でもよく書いてきたように、「ヨーロッパには動物愛護意識が発達している国と、まるで未発達の国がある」というのが正しい。
日本の政治家のみなさまが動物愛護関係で視察に行こうとお思いになったら、迷わずゲルマン系の国、つまりスイス、ドイツ、オランダ、オーストリアのどれかにしていただきたい。同じ西ヨーロッパでもスペイン、ポルトガルなどでは日本と同じく殺処分を実行しているし、地方では短い鎖につなぎっぱなしで、狩猟に使った後や年老いた犬は山に捨てる、狭い檻に詰め込んだまま散歩にも行かない等、普通である。
そして、ヨーロッパも東に行くほど下降線をたどる。中でも賄賂と汚職と貧困が蔓延しているルーマニアは犬の地獄と呼ばれている。(人間にも地獄だという人もいる。)今や、「犬を車で轢き殺すのがルーマニアの国民的スポーツ」になっているそうだ。EUからの援助はごまかされ、犬の保護ための金銭はどこかに消え、政府の収容所の犬は数を減らすために殴り殺す。避妊去勢と予防接種してある路上犬を撃ち殺す、路上では犬を撲殺、蹴り殺す、しかもそれは罪に問われない……。そして今年の9月にはそれに追い討ちをかけるように悪夢のニュースが流れた。ルーマニアの首相が犬の大量殺戮(さつりく)に同意したのだ。
ルーマニアの犬救助作戦 進行中
ルーマニア(特に地方)の多くの人は貧困に喘いでいる。そして自分の食べる物さえ十分にない人たちが外にいれば殺される運命にある犬や猫のためにシェルターを作っている。爪に火をともすような生活をしながらも、それでも犬猫たちのために餌を調達する人たち。その人たちのもとにはEUから支給されたはずの動物救済のお金など決して届かない。政府が当てにならないならば個人でするしかないのだ。
シェルターとは言っても、ドイツで定義するシェルター(動物ホーム)の要素、つまり、清潔さ、十分な餌、寒さと雨風をしのぐ建物とかは含まれていない。殺されていく犬猫たちを見かねて自分の家に入れて、食べ物を人間と分かち合っている、と表現したほうが正しいだろう。
多くの場合、あまりの貧しさに屋根を修理する金銭の余裕さえなく、壊れた古いベッドに破れたソファ、壁は落ち、窓も壊れて冷たい風が入る(寒い国だというのに!)。そのように荒れ果てた家で犬猫たちの命を護ろうとする人たちがいる。
このサイトで2013年3月と6月に(第95話と第96話)紹介したドイツ人のトラック運転手タマラ・ラーブさんはもはやドイツの動物愛護の世界ではセレブ的存在である。彼女は、見て見ぬふりをすることができなかった。
タマラさんの犬猫救助運動をサポートしようと多くのグループが寄付集めに協力していて、大成功をおさめている。
タマラさんの「できることからしよう」は、「では、できることとは何だろう?」、「そうだ、トラックで餌と毛布を運ぼう」と発展していった。トラック会社はトラックとガソリンを無料で提供した。他の運転手の人たちもボランティアでルーマニアまで運転する。インターネットやポスター、テレビや雑誌によって瞬く間に40トントラック4台分の物資が集まった。個人だけでなく、大手の食品会社や店が売れ残った食料品を提供した。
大型シェルターを建設中
タマラさんはもう1人ではない。周囲が彼女を放っておかなかった。今は「タマラ・ラーブとチーム」というグループである。そして、ルーマニアのカンプルンという町に1000頭収容可能の収容所を建設中だ。もちろん、犬猫たちはルーマニア国内で引き取り手を探すことは不可能であるので、多くがドイツやオーストリアやスイスに運ばれることになる。
この大型シェルターの建設だけではない。彼らはこれまで誰も見向きもしなかった個人のシェルターも訪れる。シェルターとは名ばかりの、屋根も壁もろくについていない掘っ立て小屋か、壊れっぱなしの古い家屋である。そんな場所でひっそりと多数の犬猫を保護していた人たちを、タマラさんとそのチームが訪れ、必要な物資を配る。
ある荒れ果てた小屋で犬猫たちを保護していたおばあさんのために、彼らは壊れた壁を修理し、窓を入れ替え、ベッドやテーブルを買って運び入れた。もちろん、おばあさんには暖かい衣類と食べ物を。「おばあさんは“信じられない”といった顔で、目をキラキラ輝かせて、少女のような表情になったんですよ」とタマラさんはレポートしている。そして、「お金や物資を寄付してくれたみなさま、本当に、本当にありがとう!」と繰り返し書くタマラさんだ。