動物孤児院 (102)今回も実験ビーグル犬たちのお話

今回も実験ビーグル犬たちのお話

台湾でも実験ビーグル犬に飼い主募集

実験ビーグル犬についてはここで何度か書いてきた。
台湾でも最近、実験ビーグル犬のことが話題になった。台湾では年に500頭のビーグル犬が実験に使われているそうだ。これまでは実験が終わっても実験室を出るチャンスはなかった犬たち。しかし、ちょっとした変化が起きた。ある実験室で死を待つだけだった実験ビーグル犬8頭を動物愛護団体が救出することに成功したのだ。ファミリー募集をしたところ、アメリカ在住の人も含め50人の希望者があった。愛護団体のメンバーは嬉し涙を流しながら、希望者たちからの手紙を読んだそうだ。
この犬たちは8歳になっており、病気の犬もいたので、まずは病気治療から始まった。救出後に心臓病で発作が起きた犬もいた。結局、治療に10万元(約35万円)ほどかかったそうである。なにしろ8年間、2坪ばかりの実験室に置かれた檻の中で、自分の排泄物の上に寝るような状態だったらしい。心身共に疲労していて当然だろう。
仲介している愛護団体は、「飼い主になる人は老犬介護の経験者が望ましい」と言っている。トイレのしつけもこれからである。又、活発な小型犬が家にいれば、実験ビーグル犬のためにプラスだと意見している。(実験ビーグル犬は実験室においても複数で飼われるため、ほかの犬と一緒にいることに慣れている。ドイツの実験ビーグル犬を斡旋する人たちも同意見だ。実験ビーグル犬は新しい環境のもと、家庭内で一緒に飼われている犬と過ごすことで多くを学ぶことができるという。)台湾でも新しいファミリーのもとで幸せになった犬たちの報告を一日も早く見たいものだ。

ドイツでも多い希望者

ドイツでは、製薬会社から実験に使った後、必要でなくなった犬を引き取るという活動が30年前に始まった。ドイツの都市ケルンで始まったので、「ケルン制度」と呼ばれる。以来、テレビや雑誌などで実験ビーグル犬の話題がしょっちゅう取り上げられたおかげで、一般に知られるようになった。そして、「実験ビーグル犬はすばらしい家庭犬になる」と評判で、新聞も雑誌も家族の一員になった実験ビーグル犬の写真を大きく掲載する。
ところで、実験にビーグル犬を使っている製薬会社の中には事実を公開する大手会社も出てきた。しかし、ほとんどの場合、製薬会社の名前は公開されない。ただ、どんな実験に使ったのかは教えてくれる。犬用の駆虫薬実験に使われた幼犬は比較的ラッキーで、生後3ヶ月から半年で実験が終了して愛護団体に引き渡すこともある。大部分は2歳から3歳だが、6歳、7歳になる犬もいる。
実験に使われるビーグル犬は、アメリカの実験動物専用の繁殖会社が実験用に改良したタイプで、普通のビーグル犬よりやせ型で脚がいく分か長く、ポケット・ビーグルと呼ばれる。そもそも動物実験になぜビーグル犬が選ばれたのか。それは飼いやすさと温厚な性格のせいなのだそうだ。愛護団体が引き取るシステムがなかった25年ほど前までは闇に生まれ、闇に葬られる運命だったのだろうが、今では動物愛護団体への引き渡しは頻繁に行われている。しかし癌や難病の薬を実験された犬の中には回復することなく一生を実験所で終える犬もいるだろう。
以前は化粧品会社もビーグル犬を使っていたが、幸い2年前EUでは化粧品会社の動物実験は禁止になった。

   
引き取り希望者の心構え

ドイツの製薬会社は必要でなくなった犬をまず愛護団体に渡す。次に愛護団体が引き取り手を探す。今日、ドイツには実験ビーグルを斡旋する団体が数多く存在して、中にはこれまでに3000頭も斡旋した団体もある。順番待ちになることもあるそうだ。
引き取り希望者はインターネットで斡旋団体を簡単に探すことができるが、どの団体も希望者にすぐ譲るということは決してない。それは実験ビーグルに限らず、動物ホームのどの犬でもドイツでは審査で希望者が引き取りに適している場合にしか譲ってはくれないが、実験ビーグル犬の場合は特別な環境にいたためトラウマを克服するまでの時間と忍耐が必要なので審査はさらに厳しい。
希望者は、犬との接し方について長時間の指導を受ける覚悟をしておくべきだろう。まず、人生の一時期をその犬と共に暮らす「心の準備はあるか」が問われる。そして、1に忍耐、2に忍耐が要求される。なにしろ2年から7年、犬にとっては永遠に近いような年月、太陽の光も散歩も知らず、性別に分けられ、数頭一緒にコンクリート小屋で暮らしたのだ。他の犬との協調性はある。だが、トイレのために外へ行く自由はなかった。それに新しい環境に慣れるまではとにかく何もかもが怖いという心境になっているので、決してひとりぽっちにさせてはならない。見かけは成犬でも精神は生まれたばかりの子犬と同じなのだ。(引き取り対象の実験動物はビーグル犬だけでなく、猫、豚、ラットもいる。)
実験ビーグル犬の薄かった毛並みは、だんだんツヤが出て立派になっていくそうだ。そして、土や野原を知らなかったピンク色の柔らかい足裏。外を歩けるようになると、固くなり色も濃くなるという。

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