動物孤児院 (104)日常生活のドイツ的動物愛護

動物孤児院 (104)日常生活のドイツ的動物愛護

犬のフードは自然牧場で

最近、ほとんど毎日のようにテレビで耳にしたり新聞や雑誌で見たりする言葉……ヴィーガン。肉魚はもちろん、玉子や乳製品も、つまり動物性の食べ物を一切食べない人たちのことである。ドイツでは最近ヴィーガンが増えて一種のトレンドになった。スーパーマーケットにヴィーガン食品のコーナーが出現し、新聞や雑誌でもヴィーガンに関した記事をよく目にする。ベジタリアン食をメニューに加えるレストランも増えた。食べ物だけでなく、靴やバッグやベルトなどの革製品も使用しない。先日の新聞には、「貝ボタンを避けましょう」という、ある有名な動物愛護団体の提案があった。
私の周辺にはヴィーガンはまだいないがベジタリアンなら何人かいる。友人(ドイツ人)のだんなさん(イギリス人)は生まれてからずっとベジタリアンで育った。奥さんはベジタリアンではなく、食事に関して対立が絶えない。二人で日本を訪れたとき、日本人家庭に招待され、彼は食卓に並んだ刺し身を食べる羽目になったそうだ。奥さんが「食べないと失礼になる」と、すごい形相で彼を睨みつけたから、必死で飲み込んだそうだ。そのことで二人は未だにケンカしている。
知り合いで動物保護に熱心なドイツ人夫婦は最近ベジタリアンになったが、飼い犬までベジタリアンということではない。スキャンダルの絶えない安めの肉は家畜がおそらく劣悪な環境で飼われていただろう、ということで、昔ながらの自然酪農を実行している牧場で肉を買っている。各所にある自然牧場には高い肉ばかりではなく、スープ用のごく安価なものもあるし、考えて買えば家計にはそれほど響かないだろう。犬がかじるための骨は前もって言っておけば無料でもらえる。私も一度もらったことがあるのだが、飼い犬のサイズ(小型犬)を言わなかったために、ずっしりと重い大きな袋を用意してくれていて、いまさらいらないとも言えずそのまま持って帰った思い出がある。

日本の犬は雑食だった

私が小学生のころ(50数年前)は飼い犬に肉を与える人などいなかったと思う。籐で編んだ買物カゴを提げた母に連れられて近所の市場にその日の夕食の材料を買いに行ったものだ。母は時々、肉を買ったが、5人家族に100グラムとか多くて200グラム。家にはいつも数頭の雑種犬がいたが、どう考えても犬たちに与える肉などあるはずがない。そのことをドイツ人に話すとびっくりする。「じゃあ何を与えてたの?」と。魚の頭とか骨とか。冷ご飯に味噌汁をかけたのとか。ドイツ人は「うっそー!」と笑う。でも事実なのだ。で、どの犬も病気らしい病気もしなかったし、栄養失調にもならず12歳以上になった。ちなみにドイツのベジタリアン雑誌に広告を載せている犬用のベジタリアン・ドッグフードの会社は、「犬は本来、肉食オンリーでなく、雑食です」が長年のキャッチフレーズだ。

クモ捕獲器とナメクジ対策

動物愛護の精神は日常生活でも発揮される。大型DIYの店には金魚や熱帯魚やコイ(ドイツ語でも日本語発音でKOIと呼ばれる)コーナーがあるが、そこにも注意書きの大きなパネルがぶら下がっている。動物愛護法により、金魚や熱帯魚の水槽の最低限の大きさが指定してあるのだ。日本の伝統的な金魚鉢をこの人たちに見せたら卒倒するかもしれない。(サイズ的にはサラダボウルにちょうどいい!)。又、日本の夜市の金魚すくいなどもドイツ人が見たら同様に卒倒するだろう。ちょうど私が台湾の夜店で、やっと目が開いたばかりの小さな小さな子犬たちを夜中の1時まで煌々とした明かりの下で売っているのを見て仰天したように。おまけにどの子犬にも「かわいい」洋服が着せられているのだ。
家や庭の小動物も愛護の対象になる。ドイツには、家の中によくいる小さなクモを傷つけることなく捕獲して外に逃すために作られたクモ専用捕獲器がある。掌に乗るくらいのプラスチック箱だ。私はホウキの先にくっつかせて外に出すが。夫に「買いたい」と言ったら、「こうすればいいよ」と、広口びんを持ってきて、クモにかぶせ、タオルでふたをして外に出した。
今、頭が痛いのはナメクジで、大雨が続いたせいか大人の親指ほどもある特大サイズのナメクジが大量発生したのだ。彼らは美味しそうな花を見つけると一晩で丸裸にする。ドイツ中にいるクロウタドリというムクドリのような鳥や、夜行性のハリネズミはナメクジを捕食するが、今年のナメクジの数はとにかく異常なのだ。鳥やハリネズミに頼るだけではとても間に合わないので、私は毎晩12時ごろ箸でつまんでは生ゴミ専用のゴミ箱に入れていた。
ドイツ人の友人にそのことを話したら、「残酷だわ!生ゴミはシュレダーにかけられるのよ」と白い目で見られた。だから、というわけではないが、次はビール作戦。夫が2ダース入り箱を買ってきた。ビールを注いだ器を置いておくとビール大好きのナメクジたちは夜半、飲みにやってきて酔っ払ったままビールの中で昇天……。しかしこの方法も気が重い。殻をかぶったカタツムリなら可愛いと思い、殻がないナメクジを害虫とみなして殺すということに罪悪感を感じる。本当は人間と共生できたらそれが一番いい。どうしたらいいものかとまだ私は悩んでいる。
ひとつ思いついた案は、アジア食品店で売っているバナナの葉を購入して、袋状に縫い合わせ、捕えたナメクジを入れて翌日森で葉ごと捨てる(放す)、という方法。森には無数のナメクジがいるから数百増えても総数(無数!)に影響はない、と思う。なぜバナナの葉か?というと、ドイツの庭には袋状に縫えるほどの大きい葉がないからである。クモ捕獲器があるくらいだからナメクジ捕獲用袋(森や野原にそのまま捨ててもOKというエコロジー的袋!)が販売されてもよさそうなものだが。

野良猫はいるが野良犬はいない

こないだ目の前で仔リスが猫に襲われ、ショックだった。「野良猫だから捕まえて動物ホームに連れて行こう」などと話していたら、近所の飼い猫だとわかり、「きちんとエサをもらっている猫が遊び半分でリスを殺すなんて!」と怒りまくった私だが、「動いている小動物を猫が捕えるのはお腹がすいているからではなく本能」と友人に言われ、あのリスは運が悪かったとあきらめるしかないと自分に言い聞かせている。
一般にドイツでは人になついていない野良猫は罠で捕え、去勢避妊をして放される。家猫になれそうであれば新しい飼い主を募集する。ドイツで飼い主の姿が見当たらない犬がいたらすぐに誰かが警察や動物愛護団体に報告して犬は瞬く間に保護されるので野良犬の存在の余地はゼロだ。狩りのシーズン後に山に捨てられて野良犬になってしまう犬たちはドイツ人保護家たちが救出してドイツに送る。遠い将来、アジアの近隣諸国で救出された犬を日本に空輸して新しい飼い主を探すことが日常になる日が来る、だろうか?

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