動物孤児院 (103)その安さ、わけあり

動物孤児院 (103) その安さ、わけあり

相変わらず東欧からの子犬密輸

昨日の新聞に、又もや子犬密輸の記事があった。今回は、セルビア人の20代男性二人がアウトバーンのサービスエリアでドーベルマンの子犬を売ろうとしたのだ。その場を目撃した人たちが、「セルビアのナンバープレートの車で、子犬を見せている」と警察に電話をしたおかげで、駆けつけた警官が二人を拘束し、3つのケージに入れてあった子犬7頭を押収した。子犬はすでに断耳と断尾をしてあったそうだ。(断耳と断尾はドイツの動物愛護法で禁止されている。)二人は1600ユーロ(約20万円)の罰金が課され、子犬たちは最寄りの動物ホームに送られた。検疫を済ませた後、新しい飼い主の募集があるだろう。子犬は動物ホームにめったに来ないから、このような新聞記事があれば電話が夜中まで鳴り続ける。

このような事件は後を絶たない。警察に見つかるケースはラッキーで、きっと多くの子犬たちが東欧からヴァンやトラックにぎゅうぎゅう詰めされて西欧に運ばれてきているはずだ。いっぺんに100頭もの子犬が見つかることもあり、母犬から乳離れしていないような幼い子犬たちは、飲水もなく、糞尿にまみれ、長旅のストレスのせいで、或いはパルボのような伝染病にかかっていて、多くが途中で死んでしまう。生き延びる数がたとえ数頭でも、西ヨーロッパでの通常の値段の3分の1以下でも、東ヨーロッパの人たちにとっては高収入になるからこの種の密輸がなかなか減らない。

ペットも家畜も護りたい



東ヨーロッパでは、西ヨーロッパで売れそうな犬種を裏庭や不潔な小屋で繁殖している。事実がテレビやインターネットや雑誌で報道されているというのに、それでも「わけありみたいだけど、とにかく安いほうがいい」と思う人はどこにでもいつの時代でもいるようだ。

今ドイツでは「安いことがいいことだとは限らない」というテーマをよく目にする。人間が食べる分はもちろんだが、犬に与える肉や玉子についても無関心でいられなくなった人が増えてきている。犬猫などのペットたちだけでなく家畜全般の動物愛護と福祉が国会でも取り上げられるようになった。

たとえば、最近ドイツのテレビや雑誌でさかんに話題になっていることのひとつに、玉子や肉の値段がある。ドイツの安売りチェーンの大型スーパーマーケットでは玉子や肉の値段をどんどん値下げしているが、「安い玉子や肉にはそれなりの理由があることを人々は知らなければならない」といった特集がテレビで扱われる。養鶏場に身動きできないほど詰め込まれた無数の鶏。羽根は抜け落ち、骨粗鬆症で脚の骨は折れ、衰弱して動けない。豚も狭いコンクリートの豚舎にぎゅう詰めされて押し合いへし合いの状態で、仲間から尻尾を食いちぎられる豚もいる。肉になるまでの短い一生、苦痛だけで始まり苦痛で終わる一生だ。



一方で、鶏たちが青空のもとで砂浴びをしたり、自由に駆けまわることのできる養鶏場もある。そのような養鶏場の玉子や鶏肉、広く清潔な豚舎で自然の餌を食べて育った家畜の肉は、前者の鶏や豚よりコストがかかるのは当然である。動物を苦痛を感じさせることなく、その動物の習性を重んじて飼うにはお金がかかるのだ。

玉子に例を取れば、一個につき10セントから15セントほど(14円〜20円)余計に払えば、私たちは鶏たちの育つ環境を最悪から最高に変えることができるそうだ。オーガニック農場で放し飼いされた鶏の玉子は、Mサイズで一個30セントほどする。1セントでも安い玉子や肉を買う人も多いが、自然酪農のオーガニック牧場の直売店で、安売り店の価格の何倍もする肉や玉子を買う人がどんどん増えているのも事実だ。私の家から近いオーガニック農場&牧場は金曜日の午後など車を停める場所が見つからないほど混みあう。

犬も然り。ドイツの血統書付きの犬は安く手に入れることはできない。雑種さえもタダということはまずない。ある特定の犬種の子犬を飼いたい、と思ったらまずその犬種のクラブを探し、最寄りの繁殖家を紹介してもらう。子犬が生まれるまで待たなければならない。生まれたという知らせが来たら見に行っていろいろ質問に答える必要がある。住環境(自分の家か借家か)、職業、家族全員が同意しているのか、何時間毎日犬のために散歩するか聞かれる。仕事で昼間家に誰もいない、などと言えば分けてもらえない。何とか入手できたとしても、犬に7、8時間も留守番させていることが周囲にわかれば警察に報告される。つまり、すべての条件をクリアしないことには、真面目な繁殖家は子犬を譲らないし、安売りもしない。世話や繁殖に相当の出費がかかっているから安売りはできないのだ。インターネットや新聞で破格な値段の子犬の広告があったら背後に何かが潜んでいると思って間違いない。

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