猟犬を考える(1)

猟犬を考える(1)

飼い主に放棄された猟犬に地域の子供が危険にさらされているというご相談がありました。
まずは、この相談者とLIVING-WITH-DOGSの会話をお読み下さい。
そして、猟犬について、日本の犬を使った狩猟について考えてみましょう。(LIVING WITH DOGS)


猟犬の起こす咬傷事故

Aさん:
私は**市に住む者ですが、今年度、市のPTA連合会会長を務めております。
先日、連合会(市P連と略)の理事会があったのですが、その折にある小学校校長さんから、市P連への要望として、猟犬対策をあげられました。
**市は、人口3万人強の小規模市で、海にも面していますが、平野はごく少なく、多くは山間に小集落が点在する小さな町です。
今から5年ほど前、**市にある○○小学校で、下校途中の小学生が猟犬に襲われ、重症を負うという事件がありました。その子はケガはしたものの命に別状なく、もう高校生になるのですが、その事件のときは周囲の大人が一所懸命犬を離そうとしたらしいのですが、怖くて思い切ったことができず、子供は重症をおうまでになってしまったそうです。
そして昨年、今度は**市の隣町である***というところで、猟犬が飼い犬をかみ殺す事件がおきました。


LIVING-WITH-DOGS:
猟犬の咬傷事故は後をたちません。残念な事ですね。本来の猟犬はそのような育て方をするものではないのですが、日本はどうも猟犬というと家庭犬とは異なるしつけ、猟を特化させるための訓練と称して社会化しない犬を作り上げている傾向を感じてなりません。

Aさん:
田舎におりますと、子供を取り巻く危険は、大阪・池田小学校児童殺傷事件のような変質者・異常者やクルマばかりではありません。クマなどの野生動物も、身近な、現実の脅威となりえるのです。大阪・池田小学校の児童殺傷事件の後で防犯ブザーを児童に携行させる学校が増えましたが、当地の小学校ではその2年前から持たせています。クマよけのためです。そういった地域で、一連の猟犬の事件により、猟犬は子供の回りにある危険の1つとして認識されています。

LIVING-WITH-DOGS:
猟犬だけではないと思います。放たれた外飼いの犬も危険でしょう。地方であればあるほど、犬は繋いで飼われ、散歩もろくにせず、夜、放つと言うような飼い方がまだまだあります。また、大型の獰猛な家庭犬が起こす咬傷事故は新聞やTVで報道されております。このような咬傷事故はあってはならないことなんですね。
犬は、仔犬のころから飼い主が愛情を持って接すれば、決して人を噛んだりしないものなのです。
犬同士の喧嘩の巻き添えで飼い主が噛まれることがあっても、犬が人を襲うと言うことは余程でない限りあり得ないのです。
また猟犬については、獲物の動きを見て、逃げようとすると追いかけ、獲物を回り込んで吠えて威嚇したり、咬みついたりと、獲物が逃げないよう飼い主が来るまで、その場に獲物をとらえます。そのような訓練を行っています。主にクマ、鹿や猪などの獣猟ですが。
鳥猟犬は、鳥の潜んでいる藪の側でポイントし、飼い主が側に来るまで鳥を動かさないようじっと待ち続けます。また撃ち落とした鳥を運ぶ用途の猟犬もおります。
ウサギ、キツネ等の動物は穴まで追いつめ吠えて知らせます。猟犬と言っても、その用途は様々です。
実際に我が家は猟犬を飼育しておりませんで、具体的な訓練方法はLIVING-WITH-DOGSには、猪猟の犬について説明があります。
http://LIVING-WITH-DOGS.COM/jp/working/hunting2-j.html
http://LIVING-WITH-DOGS.COM/jp/working/hunting1-j.html

をご覧いただければ、本来の猟犬のあるべき姿が理解できるものと思われます。

Aさん:
私は今年度、市P連活動に取り組むにあたり、「地域の子、守ろう 叱ろう 育てよう」というスローガンをかかげました。子供達は地域の宝である。そして何よりもまず子供達を守ろう。そして次に子供達を恐れずしつけよう。そして皆で育てていこう、という理念です。そういう私にとって、猟犬の問題は、5年前の事件として忘れていいものでは決してありません。何らかの具体的な動きをしたいと思っているのですが、今はその方法を模索しています。

LIVING-WITH-DOGS:
私どもが一番悲しいのは、無法者の飼い主に育てられた猟犬によって、大人や子供達が犬を愛すべきものと思えなくなるのでは? と言うことです。実際には、犬が悪いわけではなく、猟犬を訓練する飼い主が訓練方法を誤り、管理方法を誤っていることが原因です。犬の行いはすべて人の鑑なのです。

Aさん:
そのような中、このHPを見つけ、猟犬が飼い犬をかみ殺したという、同じようなケースがあるので、興味を持って読ませていただきました。また、他のページも読ませていただきました。犬とともに暮らす方々の数々のお話しを見ると、感動せずにはおれません。
しかし、猟犬が何の非もない子供を襲い、あやうく殺しかけたという事実はまた歴然としてあるのです。
くだんの校長先生は、「クマなら自然の生き物が自然の本能に従って行動している。しかし、狩猟の大半はレジャーというではないか。そんなもののために子供の命が危険にさらされるというのは、断じて納得できない」とおっしゃいました。


LIVING-WITH-DOGS:
その通りでしょう。断じてそのような猟犬を育てた飼い主は許すべきではありません。

Aさん:
この地域では、5年前に子供が襲われた時、有効な手段がとれなかったことを悔やみ、今度同じことがあったら即時に猟犬を殺せるような工夫をしている家庭が少なくないとも聞いています。

LIVING-WITH-DOGS:
殺すと言っても猟銃を常備できる訳ではないと思います。もしも飼い犬が係留中襲われてたら、最中に棒や、石を投げつけたら逆効果です。バケツの水をかけて追い払うことです。
まずは、お子さん達に、もしも道で怖そうな猟犬に会ってしまったら、絶対に背中を向けて走らないようにするよう(実際には恐怖で逃げたいでしょうが。じっとして動かず穏やかにしていることが肝心です。また犬の目を見ないで、そらすことです。声も発してはいけません。棒や石で攻撃をすると犬は、自分を守ろうとしてかえって攻撃態勢になります。
犬は、理由なく咬まないのです。自分がとても臆病で攻撃されると思うからこそ噛みつきます。犬の噛みつき力は人の腕や足の骨なら簡単に砕く力があります。猟犬にもこの方法はある程度は効果はあると思います。

Aさん:
私自身、地質調査などの仕事で山へ入ることも多々あるのですが、その時は常時ナイフなどを携行しています。クマその他に出会い、これに襲われてしまったときのせめてもの抵抗に、という意味もあるのですが、正直に申しますと猟犬のほうが私には脅威です。長年山歩きをしてきたため、野生動物の習性はある程度わかっておりますし、それゆえに「お互いうまく付き合う」ことができるつもりでおります。しかし、猟犬は野生動物ではありません。たまたま出くわすのではなく、最初から襲おうとして来る可能性があります。そしてそのときには、「やられる前にやる」と決意してもおります。そのことは何と否定されようとも、以前の一件がある以上、考えを変えることはできません。

LIVING-WITH-DOGS:
この襲おうとして来る可能性のある猟犬ですが、野犬化した猟犬と言うことでしょうか?
このような野犬化した猟犬は捕獲しなければ危険です。捕獲も簡単には出来ないでしょうが。野犬化した犬は狼ではないので、自分で猟をして日々の糧を得ることは出来ないのです。人から虐待を受け捨てられた犬は、人に不信感を持っていますからけして人の前には現れません。よほどおなかがすいている時でなければ逃げるでしょう。普通に飼われていてやむを得ず捨てられた犬は人に愛情を求め近寄ってきます。
一様にこのような家庭犬が野犬化した場合は臆病になっていますから逃げる事はあっても、襲うことはよほどその時に石つぶてをあびたなど自分が窮地に陥ったと思わない限り襲わないのです。ただし、野犬化した猟犬だけは別です。狩猟本能をよみがえらせていますから。

Aさん:
このような状態は、本当に悲しいことだと思います。貴HPを拝見し、ますますその考えを強くしました。

LIVING-WITH-DOGS:
一度、家庭犬を襲った猟犬は、再トレーニングを行うのはかなり難しいです。余程飼い主がリトレーニングを精一杯努力しても、その後も充分に気をつけなければならないでしょう。このような猟犬に育ててしまう飼い主を排除しなければならないのです。そんな猟犬を育てるハンターは犬飼いの恥ですね。

Aさん:
今、学校では教育改革の名のもといろいろな変革がなされていますが、多様な価値観を認め合い共存共栄するという心、「みんな違って、みんないい」という心を子供達に教えることが、主要なテーマの1つともなっております。
子供を守るため、子供の身の回りの危険を減らすため、猟犬に関する規制、場合により排除を検討するしかないと思っているのですが、犬を愛する方々の心を無視して、「猟犬なんて連れてくるな」ということは、できればしたくないと思っています。できるならば、互いの立場や考えを尊重しあう方向に進めないものかとも思っています。しかし具体的にどうすればいいのかがわからず、正直途方にくれています。


LIVING-WITH-DOGS:
子供達を守りたいというお気持ちは充分に理解できます。LIVING-WITH-DOGSとしても、どうしようもない猟犬の飼い主にどうにか一石を投じたいと思っています。
実際にLIVING-WITH-DOGSでは、マイクロチップの導入を提案していますが、猟犬は必須とするべきであると記載しています。
昨年の12月に動物愛護法が施行されましたが、その内容はまだまだ不十分です。以下の「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準(素案)」に関するパブリックコメントの実施結果の概要についての中で猟犬についての飼い方も素案があります。
http://www.env.go.jp/info/iken/result/h140314a.pdf
164には猟犬の管理方法が考慮されていますが、これもまだまだ不十分でしょう。とは言ってもすべて飼い主ありきですから。
また猟期後に猟犬が捨てられる実態はあまりにも悲惨です。ある地域では、そのような猟犬を地域で餌付けし、飼い犬として何頭かを飼養しているという話を聞いています。しかし場所を明確にするとその場所に捨てられるので公開できませんが。

Aさん:
話が長くなりましたが、いかがお考えでしょうか。よろしければ、ご意見をお聞かせください。また、何か参考になるようなことがありましたらお教え願いたく思います。

LIVING-WITH-DOGS:
ただ、「猟犬は怖い」という偏ったイメージだけで、犬すべてが怖いとは子供達に伝わらなければ良いがと思います。犬は本来は、人の最良の友なのです。人が間違った飼い方を行った為にそのような犬がいると言うことを子供達に説明していただければと思います。

[お返事をいただいて]

Aさん:
メールを差し上げてからもいろいろなHPを見ました。
人間を純粋に慕っているにもかかわらず粗大ゴミのように捨てられてしまう犬がこれほどいることに、強い衝撃と憤りを感じました。私自身も小さい頃、家で犬を飼っていました。その犬がいつ、どのように死んでしまったのか、今では記憶がありませんが、両親に聞くと泣いて泣いて泣き明かしたそうです。もう35年も前のことになりますが、それから私はどうしても犬を飼う気になれないでいます。私の身の回りを見渡しても、犬は多くいます。いとおしくなるような犬ばかりです。しかし、何百分の一かどうかわかりませんが、人の命を脅かす犬がいることも確かです。


LIVING-WITH-DOGS:
その通りです。そしてそのような犬も人が作ってしまったのです。

Aさん:
そしてそれは犬の責任ではなく、不心得極まりない飼い主の責任であると、私も全くそう思います。1シーズンごとに猟犬を捨てたり、時には撃ち殺してしまったりするような飼い主というものは、モラルを求めることも難しいと思います。なんとかそのような飼い主は二度と犬を飼えないようにできないものかと思います。

LIVING-WITH-DOGS:
まったくその通りです。飼い主の資格審査のようなものがほしいですね。

Aさん:
そこでご相談ですが、次のような行動についてどのように思われますでしょうか。よろしければご意見をお聞かせください。

1. 小学校の通学路から一定距離の区間は、狩猟を禁止する「禁猟区」とするように、請願・陳情・署名運動をPTAで組織だっておこす。

2. 衝撃的な事件の余波で、犬に対する、特に猟犬に対するとらえ方が偏り、また正しい知識が私も含めてもてていないように思う。人と犬とのそもそもの関係、猟犬や外飼い犬の諸問題、犬に襲われそうになったときの対処法など、正しい知識を持つことが何より大切ではないかと思う。

3. また、学校教育の面からも、人間に一番近い生き物である犬というものをしっかりと学ばせることは、子供にとって無意味ではないと思われる。こういった見地から、愛好家・識者などを招き、講習会を地域・学校で開催する。

LIVING-WITH-DOGS:
1.については、即刻行政に請願するべきでしょう。ただし捨てられた猟犬の場合は禁猟区にしようがしまいが犬はおります。捨てることが出来ないようにしなければなりません。もしもハンターがこの犬をもういらないと決めたなら、山に放つのではなく自分で犬を処分(安楽死)させるくらいの責任感を持たなければならないのです。
また、2.については、猟犬については、飼い方は家庭犬とまったく同じであるはずですが、困ったハンターは犬の訓練方法に何か勘違いをしているのでは? と思われる節がおうおうにあります。それこそ、正しい知識を持って犬と接し、犬と共に同じ目的で狩りをするという原点に立ち戻り、追っても良い獲物、追ってはならない動物を教えることは、パートナーである人、猟犬の飼い主さんの責任です。また、犬に噛まれそうになったときは前回のメールを参考にして下さい。訓練士さんや、動物行動学者はもっと詳しく説明して下さるでしょう。
そして、3.については、素晴らしい事だと思います。日本の青少年の起こす犯罪は幼いときに動物を慈しむ機会がなかった子供達であるという統計もあります。日本はその現状だけを憂え、いたずらに犬や猫とふれあえるというテーマパークがそこかしこに出来ています。これも犬猫にしてみたら動物虐待なんですが。
そんな場所に行って触れ合うのではなく、愛犬家の犬たちが実際にお子さん達を前にして、犬との暮らし方、一緒に遊びながら、犬と楽しむような機会を作られると良いのではないでしょうか?
また、動物愛護の活動をされている方や、獣医師に、犬猫が、古代から人と一番の友達だったというお話から、育て方、犬との付き合い方を教えていただくのも良いですね。

Aさん:
素人の馬鹿げた発想かもしれませんが、もしお時間がありましたら、何度もお手を煩わせて申し訳ありませんが、ぜひご意見をお聞かせください。

LIVING-WITH-DOGS:
一般的な親御さんは、犬によって子供が危険にさらされると、犬を排除しようとします。排除することでかえって犬嫌いが増えてしまいます。そんな事をしたら、次の世代はもっと悲惨な青少年が増え、虐待される犬猫も増えてしまうでしょう。

(2002/06/15) (LIVING WITH DOGS)

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