ある迷子犬騒動

ある迷子犬騒動

突然、我が家の獣医さんから電話がありました。獣医師からは、
「ゴールデン・リトリバーが保護され病院に連れてこられたんですけど、この子はアカラスがひどく首からおなか手足、目の回りとただれています。あまりにもひどい状態なので薬浴をさせましたが、どうも捨てられた可能性があります。保護した方は一時預かりはされると言うことなので、里親探しをお手伝いいただけませんか? 」と言うことでした。
獣医師の健康チェックでは、このG.R.は雌犬でおそらく一度出産させているか避妊手術をしているとのこと、10才くらいという見解でした。

私が見たところ、皮膚がひどい状況ですが鼻は真っ黒ですし、歯もまだきれいです。毛づやが悪いために老けて見えますが。おそらく7〜8才ではないかと思います。

おとなしく、人が大好きというおだやかな性格の犬です。獣医師が「すわれ」のコマンドをしたところ、判りません。「Sit」と声をかけると座ります。「good girl」でしっぽを振ります。どうも外人に飼われている犬のようです。

私も、この子の身体に触れてみましたが、手を出して触ってと甘えてきます。診察室の片隅で安心しきって横になり気持ちよさそうに寝ています。

この保護犬、健康状態はアカラス以外はまったく問題はありませんでした。

保護したご夫妻、獣医師、LIVING WITH DOGS で「ちゃんと治療したらこの子はきっと幸せになれますねと確認」この子の幸せな未来を話し合い始めました。

警察と保健所への迷子犬を預かっているという報告を行うこと、この犬のこれからの治療方針、里親募集のための手配などを一つ一つ確認しながら話していました。

そこに動物病院に電話が入りました。ある会社の方からで、飼い主さんの代理の方でした。

飼い主さんはやはり外人でした。昨晩、逃亡したけど、どうやって探せば良いのかわからず、日本人に頼んでやっとこの病院にたどり着いたとのことでした。

保護したご夫妻と、獣医師、LIVING WITH DOGS も当然のことながら、この子を飼い主の元に返すことがこの犬の幸せに繋がるのか疑問でした。

実は保護したご夫妻も、ご主人はアメリカ人です。「アメリカならばアニマルポリスがあるけど、日本にそのような機関はあるのでしょうか?」と尋ねられました。残念ながら、日本ではまだアニマルポリスはなく、食事を与えられていれば虐待とみなされないという話をいたしました。虐待の提議がありませんので、犬の健康管理を怠っていると言うことが虐待であるとは残念ながら言えないのです。しかし、この子は明らかに虐待されている状況ですが。このような愛犬の健康に関心を示さない飼い主に、この犬を返さなければならないとは何とも言えないむなしさを感じてしまいました。

飼い主が迎えに来たら、きっとこの子はしっぽを振るでしょう。そしてその後は、かゆい身体をどんどん悪化させてしまうでしょう。それが見えているので一同どうにもならない歯がゆさを感じたのです。


■その後の顛末(1)

翌日、獣医さんから、昨晩の飼い主さんとの話し合いの内容を伺いました。
飼い主さんは、「この子のアカラスは2才位から出始めて、獣医さんに連れていっても治りが悪く、毎年夏になるとひどくなり、5年間このような状態だった。」とのこと。7才でした。

そして保護したご夫妻からも詳しい話し合いの情報が入りました。
保護したご夫妻は、飼い主さんにこのような飼い方は虐待であるということを誠心誠意伝えたようです。
この子の治療をして欲しいこと、外飼いをしないで欲しいと伝えたそうです。
飼い主さんも治療に専念すると約束したそうです。

また、飼い主さんが出張で日本を離れる期間、このご夫妻が預かることになりました。この子のアカラスを完全に治してあげたいという一念で、ご夫妻が申し出でて下さったようです。

この子の行く末を、ご夫妻が見守ってくださいます。LIVING WITH DOGS も陰ながら応援して見守りたいと思います。もしもひどい状態に戻ったら、今度こそ犬を取り上げなければとね。

今回の迷子犬騒動で、改めて感じたことですが、我が家の近所で外飼いの犬はまれです。
それも外人の飼っている犬が外飼いであったことは意外でした。まあ、欧米人でもこんなひどい飼い主がいるんだと教訓でしたが。

マルコさんからちょうどお電話をいただき、この顛末を話したところ、「ひどい外人だね〜、そんな飼い主に犬を戻したら結局元の黙阿弥」と江戸弁であきれていました。
私は「外人はマルコさんみたいに、みんな動物愛護の精神を持っているのかと思ってました」と、電話口で嘆いたのです。       

(2004/8/8)(LIVING WITH DOGS)


■その後の顛末(2)

飼い主さんが海外出張中、保護犬の発見者であるEさんご夫妻がゴールデンを預かって下さっています。Eさんご夫妻からご報告がありました。
女の子の名前はアラスカちゃんです。
「先週からアラスカちゃんをうちで預かっていますが、見違えるように元気になってきました!保護した時の状態からは信じられないくらいです。肌の状態も少しずつよくなっているみたいですし、なんといっても顔つきが違います。おもちゃに夢中になって遊ぶようにもなりました。本来はまだまだ若くて元気な犬なんだと、改めて思いました。」

まずは治療の効果が少しづつ出ているようですね。それと一番肝心なことは、アラスカちゃんの感情表現が出始めたと言うことでしょう。
いつも外で家族から離されて暮らしていたと言うことですから、現在はEさんご夫妻と2頭のワンちゃん達との暮らしに慣れてきたのでしょう。
ところで、アラスカちゃんの皮膚はアカラスという名前の病気です。
アラスカちゃんのアカラスは、2才頃から発症し、何度か治療を施したようですが、治療を途中で止めてしまった為、現在のようなひどい状態になってしまいました。
獣医師は最低でも2ヶ月間の薬浴と治療が必要と診断していますが、再発の可能性もありますから、免疫力を高めながら皮膚の状態をしっかり見て治療を進める必要があります。
これまでの治療例では半年かかった例もあります。

・アカラスについて

アカラス(毛包虫症)は顕微鏡でないと見えない寄生性のダニが原因で起こる皮膚病です。
人間は人間のアカラスを、犬は犬のアカラスをそれぞれほぼ100%の個体が持っており、普段は悪さをすることもなく皮膚の余分な脂を食べて共生しています。出生後まもなく母犬から伝搬され、その後は他の個体から移ることはありません。アカラスの犬から、他の犬に感染することはありません。
脱毛、かゆみが主な症状ですが、顔面、手や足などの局所に起こる軽症型と全身性の重症型があります。生後1年以上たって発症した場合には、内分泌疾患や免疫異常などの基礎疾患があることもあります。原因不明の難治性の場合もまれに認められます。

他のダニの感染症と比べて治りにくく、早期診断し、適切に治療を行えば治癒が可能です。しかし、このダニは遺伝や内科的な病気、腫瘍などとも関連性があるといわれ、しばしば再発することがあるので、完治した後も注意する必要があります。このダニは人に感染することはありません。

(2004/8/19)(LIVING WITH DOGS)


■新しいおうちへ

アカラスの治療を続けているアラスカちゃんのその後です。獣医さんに「治療は順調ですか?」と尋ねましたら、飼い主さんも真剣に治療を考えているようですが、第二子の出産をされるのでどうでしょうかと獣医師も心配な顔をしていました。
保護されたご夫妻から、嬉しいご報告がありました。「思わず良かった〜!!」と叫んでしまいました。犬と暮らす方に終生飼養をとLIVING WITH DOGS は訴えていたのですが、この子の場合はどうにか手放して欲しいという思いでした。アラスカちゃんのこれからの新しい暮らしを見守って行きましょう。(LIVING WITH DOGS)

さようなら、アラスカ!

先々週の金曜日なのですが、私たち夫婦はアラスカちゃんの飼い主夫妻からディナーに招待されました。これまでのお礼ということで…。その席でいきなり「アラスカをもらっていだたけませんか?それが無理ならどこかあの子にふさわしい引き取り手はないでしょうか?」といきなり持ちかけられたのです!飼い主夫妻は「子供ができてからアラスカの世話が十分にできなくなり、犬に愛情を注ぐ余裕がなくなってしまった」と率直に理由を話し、「手放すのは心が痛むものの、アラスカにとって一番いいことは何かを考えたうえでの苦しい決断である」と私たちに説明してくれました。ちなみに現在、ご夫妻には2歳の娘さんがおり、奥さんは二人目を妊娠中です。
治療放棄とはいえないものの…
「なぜ皮膚病があれほど悪化してしまったのか(わかっていながら放置していたのか?)」ということについても、はっきりと聞いてみました。話によれば、大きな原因はどうも「誤診」にあるようです。前にかかっていた獣医さんが「家ダニアレルギー」と診断し、外で飼うように指示したそうです。(猛暑高湿の環境でも?)
また、飼い主の奥さんは「ストレスも症状悪化の原因だったかもしれない」と指摘、アラスカちゃんがうつ状態だったり、脱走を何度も試みたりするなど、精神的に不安定な状態が続いていたことも話してくれました。
家の中から外に追いやられ、家族にも相手にされなくなってしまい、アラスカちゃんは相当さみしい思いをしていたのでしょう。

アラスカ、新しいうちへ!

さて、アラスカちゃんの今後ですが、できれば私たちのところで家族の一員として迎え入れたかったです。しかし、うちにはすでにゴールデンとコリーがおり、大型犬を3匹飼うのは無理でした。相談した結果、当面はうちで世話をしながら里親探しをしよう、ということで話がまとまったのですが、アラスカちゃんはラッキーです。というのも、夫の同僚であり、私たちの友人でもあるアメリカ人女性がちょうど犬を飼おうとしていました。しかも保護施設から成犬を引き取ろうとしていたのです。その人の名前はTracyさん。アラスカちゃんの話を詳しくしたところ「運命の犬だ!」といって、すぐにでも引き取りたいと申し出てくれたのです。
もちろん、皮膚病や治療の必要性を理解したうえのことで。(治療が終わるまではうちで面倒をみるといってみたのですが、まったく問題ないということで却下されました!)
そうこうして飼い主夫妻と約束していた13日の夜、Tracyさんと私たち夫婦3人はアラスカちゃんを迎えに行きました。さすがに(子供が生まれるまでは世話をしていた)奥さんにとっては辛い別れとなり、始終泣いておられました。(飼い主として落ち度はあったものの、奥さんの方は大の犬好きです。アラスカちゃんと過ごす最後の週末は家族全員でビーチに行き、楽しいひと時を過ごしたそうです。
奥さんはそのほかにもアラスカちゃんとの楽しい思い出をいろいろと聞かせてくれました。)
今日はアラスカちゃんの通院日でした。新しい飼い主さんのもとでは最初の治療になります。おせっかいながら、初めてのことでまだ勝手がわからないというTracyさん(日本に来てからまだ4ヶ月)に私は同行しました。
アラスカちゃんとTracyさん、一緒に暮らし始めてまだ3日目ですが、歩いている姿はすでに息の合ったパートナー同士という感じでした。新しいうちの中でどうしているかも気になり、Tracyさんのマンションを何度か訪ねてみましたが、のびのびとリラックスしているようです。新しいおもちゃをたくさん買ってもらい、よく遊んでいますよ。うちでお預かりした時にも感心したものですが、この犬の環境適応力は本当にたいしたものです。
わずか2ヶ月たらずの間にアラスカちゃんの身にはいろいろなことが起こりました。
今のところ、始めからTracyさんが飼い主だったかのように幸せそうにしていますが、生活環境の変化によるストレスは小さくないはずです。
いい飼い主さんに巡り会えたとはいえ、完全に慣れるまでは少し時間がかかるかもしれません。これからもTracyさんとアラスカちゃんの新生活を見守っていこうと思います。

(2004/9/16)(東京都、C.Eさん)

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