小林信美の英国情報 (1)ファッションショーの犬たち

(1) ファッションショーの犬たち

1月31日付のイギリスBBC放送のインターネットのサイトで「ニューヨーク・『ファッションショー』の犬たち」と題された記事を目にしたので、イギリスで犬と生活を共にする者としての感想をひとこと。
その前に、記事の概要は以下の通り。

特派員のスティーブン・エヴァンズ氏によると、零下20度〜30度にもなるニューヨークでは、ホームレスの人たちは寒さをしのぐのに、大変な思いをしているのにも拘らず、道行く人たちは冷たい視線を向けるだけ。
それに比べ、ニューヨークの犬たちはお気楽な生活をしており、愛犬家たちは、この時ぞとばかりセーターやマフラーなどで愛犬を着飾らせ、特に、トレンディーなイースト・ビレッジでは、その数たるや、まるで犬のファッションショーを見ているようだという。

そして、エヴァンズ氏、曰く「ニューヨークは、今や、世界一の『ワンワン天国』」だそう。

現在のニューヨークの犬口(犬の頭数)約53万頭で、18歳から24歳までのニューヨーカーの20%は、犬を飼っているといい、シングル族の愛犬家の比率が高いことを指摘。
この裏には、どうも季節のよい時期には愛犬がシングル同士の出会いの機会を与える珍道具としても活躍するかららしい。エヴァンズ氏によると「ニューヨークの公園には、『ドッグラン』なるものがあり、そこで自由にリードなしで走ったり、犬本来の行動(ご想像におまかせします)を行うことが許されている」とイギリス人特有の皮肉をたっぷりこめて説明。「さらに、ここがシングル同士の出会いの場ともなっている」と続ける。

記事の中で、エヴァンズ氏は、パリ、イギリスと比較し、ニューヨークでは犬は刺青等と同様「ファッションシーン」の一部とみなされているとし、ちなみに、イギリスでは、
「犬は田舎の野原を走り回らせるもの」という認識があることをつけ加えている。イギリスでは、犬は犬らしくあれということが非常に重要なことをここで再確認しているのである。

これほど、大切にされているはずの犬たち、エヴァンズ氏が理解できないのは「動物愛好家であるはずのニューヨーカーたちが、犬を狭いアパートに閉じ込めっぱなしにして外出してしまう」こと。それというのも「彼のアパートの上の階に住む人も、週末、外出が多いらしく、独りでお留守番の犬の遠吠えを聞かされるはめになる」からだと説明する。

最後にエヴァンズ氏は、極寒のニューヨークでは、貧困層の集合住宅において、暖房と温水が止められているところもあり、ホームレスも悲惨な状態であることから、ニューヨークの犬の方がまだよいのではないかというような論調で記事を締めくくっている。

この記事を見て、つい最近、雑誌の取材で馴染みになったイギリスのチワワの状況が思い起こされた。イギリスでは、小型犬は大型、中型犬を飼うことのできなくなったお年寄りのものというイメージが強い。そして、ケンネルクラブの調べからも小型犬はイギリスではそれほど人気がないことは明らか。ちなみにイギリスの人気犬種トップ5(KCの登録件数による)は以下の通り。

1位 ラブラドール・リトリーバー、2位 ジャーマンシェパード、3位 イングリッシュコッカースパニエル、4位 イングリッシュ・スプリンガースパニエル、そして5位 スタッフォードシャーブルテリア。
いずれも、中・大型犬である。それというのも、上記のエヴァンズ氏の指摘するとおり、犬は、田舎で自由に走り回らせるものだという認識が強いからであろう。
だから、犬をリードで歩かせるのは、犬が病気の場合、または、攻撃性があって自由に放せない場合等というように一般的に認識されているよう。私も我が家の愛犬(スタッフォードシャー・ブルテリア♀です)が子犬の時に戻ってこなかったらどうしようという不安から、生後5ヶ月近くになるまでオフリードで散歩できないでいたのだが、その間、他の愛犬家から「いつになったら、自由にしてあげるのか」、「かわいそうだ」などの非難の声を浴び、大変なジレンマに陥ったことを思い出す。

あれから3年近くたち、一時は、しつけ教室に週3回ほど通うなど、大変な苦労の末、今では「リコール」もほぼ完璧にこなす、すばらしい犬になり、近くの森で毎日朝夕、1時間強ずつ、りす、時にはきつねを追いかけて遊ぶという幸せな生活を送っている。ここで、お察しかもしれないが、イギリスにはドッグランというものはない。少なくとも、ここ数年、某愛犬雑誌の取材の際、見聞きしている限りでは、ということを念のためつけ加えておきたい。そして、たいていの公園では、指示がない限り、犬をリードから放してもよいことになっているので、愛犬家にとっては非常に恵まれた環境にあるのだ。

ここで、チワワの話に戻るが、日本でもおなじみのバタシー・ドッグス・ホームの「里親探し」のリホーム課の副課長ステファニー・コーリス女史によると、チワワも他の犬と同様、1日に毎朝夕「少なくとも」30分の運動が必要だとしている。彼女も実は、チワワ・リホーム組に属し、チワワに関しては詳しい。彼女によると、愛犬のチワワ、スパイクくんも他の同居犬のパーソンジャックラッセルやドーベルマンのクロスの犬と同様、1時間以上散歩に出かけても、全くへいっちゃら。逆に、散歩に連れて行かないと、イライラがタマっていたずらをすることにもなると警告を発する。最終的には、チワワも犬なのであるということだ。

小型犬は小さいゆえに、おもちゃのように扱われがちだが、犬であることには変わりない。散歩も必要であり、また「パックアニマル」と呼ばれるように、社会性のある、群れで生活する生き物なのだ。だから、上記のエヴァンズ氏が指摘するように、独りでお留守番というのは、犬にとって大変酷な話なのである。上記の記事の中でニューヨーカーは、外出する際、愛犬を赤ちゃんをおんぶする時に使うような「スリング」で連れて歩くとしているのだが、散歩はきちんとさせているのかしらと、老婆心にかられる私は、ただの「おせっかいババア」になっているのだろうか。少なくともエヴァンズ氏は、この状況を例の皮肉をきかせて「ファッションアクセサリーのようだ」としている。そう思っているのは私だけではないとほっとするのだが..。

(2004/02/05)

(ライター・小林信美 Ext_link Matilda the little Staffie!)

サブコンテンツ

カテゴリー

このページの先頭へ