小林信美の英国情報 (5)イギリスでドッグトレーニングを学ぶには

(5) イギリスでドッグトレーニングを学ぶには

最近のペットブームで日本でもドッグトレーナ ーになりたいという人の数が年々増えているようなので、イギリスでプロを目指し、ドッグトレーニングを学ぶにはどうしたらよいかについてご紹介したい。
日本のようにドッグトレーニングの専門学校のない、ここイギリスでは、とにかくさまざまなトレーナーによる短期コースをいくつもこなし、ベテラントレーナーにつき、実際に行われている、しつけ教室見学、いわゆる「オンザ・ジョブ・トレーニング(on the job training)」で経験をみがき、ドッグトレーナーとしての力量が備わって初めて、プロのドッグトレーナーとして独り立ちできる。

1995年にドッグトレーナー職業団体「アソシエーション・オブ・ペットドッグ・トレーナーズ(Association of Pet Dog Trainers-APDT)」が設立されたことで、ドッグトレーナーの質を向上させようという動きも見られるが、日本と違い、イギリスでは資格イコール「ただの紙切れ」という観念が、まだ根強く残っており、それほど定着していないようである。それでも、同団体によるコースは、質の高いドッグトレーナー育成という目的でデザインされており、参加者も、犬の行動学一般の知識と、ある程度ドッグトレーニングの経験も持っていなければならないということで、かなり高度なものであることがわかる。

そういうことで、残念ながら、犬のトレーニング方法の基礎を学びたいという人には、適当とはいえない。さらに、経験者によればかなりの英語力(「英会話」ができるだけでなく、講義を理解でき、英文リポート作成等ができる程度)がないと参加しても、意味がないということで、はじめに英語学校に通って英語力をしっかりつけてから参加した方がよいと忠告している。それから、APDTでは「犬にやさしく、フェアな(kind and fair)」コンセプトのドッグトレーニングをプロモートしていくということをうたい文句にしているので、ピンチカラー([4]を参照)等を使用するトレーナーは、会員にはなれない(このことについては、海外情報で紹介してあるので、ご参照を)のであしからず。

イギリスで、ドッグトレーニングの勉強をしたいという日本の皆さんに参考にしていただきたいのは、動物を使ってお金を儲けるのはよくないことだという、ヨーロッパ的な倫理観であろう。例えば、大手のレスキュー団体であるバタシードッグスホーム(Battersea Dogs Home)の職員の給料は、微々たるものである。4年前に取材を行った際、事務職で年間1万4千ポンドというから、ポンド高の現在のレートで計算しても270万円にも満たない。しかも、労働時間は長い。それでも、仕事の応募者は後を絶たず、定着率もよいというので、同団体で仕事を見つけるのは、非常に困難なことなのだ。

犬のしつけ教室の料金はどうかというと、えさを最も多く使う子犬のクラスが、1クラス、せいぜい6ポンド(1,200円弱)、子犬のクラスを終えた犬、成犬のクラスは大抵、3,4ポンド(6〜800円)であるので、ドッグトレーナーでお金もうけをしようと思っても、ほぼ無理であることは納得していただけると思う。唯一、問題行動を持つ犬の個人レッスン等を行えば、ある程度の収入も見込まれるが、ドッグトレーニングだけで食べていこうという考えを持っている人は、「よほど」のビジネスの素質がなければ生き残れないというのが現実である。実際、それほどのビジネスマン・ウーマンは、ドッグトレーニングなどには目もくれないであろう。

上記の点を踏まえ、イギリスでドッグトレーニングを学ぶ際、ドッグトレーニングでお金を儲けようとしている人には、よく注意した方がよいということを忠告したい。ここで、イギリスでひどい経験をしたドッグトレーナー志望の日本人学生の例をご紹介してみたい。これは、先日、海外情報でご紹介したジョン・アンクル氏のしつけ教室を見学に訪れた学生の口から直接聞いたもので、事実関係について、トラブルのあったトレーナーに直接確認したわけではないので、そのことはここで明確にしておきたい。

そのトレーナーは、知名度も高く、個人指導を行うといううたい文句で日本のエージェントを通して生徒を集めているらしい。そして、この学生は、住み込みで家事一般等をさせられたうえで、破格な教授料を徴収されていたものの、6ヶ月間、きちんとした目的をもったトレーニングは、受けていなかったようなのだ。もちろん、英語力が十分でなかったこともあって、そのトレーナーとのコミュニケーションがきちんととれていなかったということも、問題の原因のひとつと考えられる。しかし、イギリスの殆どのトレーナーがトレーニングの一環として「しつけ教室見学」を受けつける場合、生徒にアシスタント的な役割をこなすこと以外、教授料等、要求しないのが一般的であるので、この手の商売上手なトレーナーは避けた方が無難であると思われる。もちろん、短期コース参加等は、有料であるので、混同されないように。

さて、最後になるが、海外情報でご紹介した通り、問題行動を持つ犬も扱うという、業界の「一匹狼」的存在のアンクル氏のもとにも、口コミでその師事を仰ぎ門戸を叩いてくるトレーナーの卵の数は多い。アンクル氏自身、これまでさまざまなトレーニングコースをこなしてきた経験から、基礎的、かつ実践的なトレーニングコースの必要性を感じ、数年前、短期コースの設立に踏み切った。そういうわけで、今年も7月31日(土)〜8月3日(火)までの4日間、日本語通訳つきで第9回ハンズオン(実践)・コースが行われることになっている。

今年は、緑に恵まれた北ロンドンのマズウェルヒル運動場にある地元サッカーチームのクラブハウス(通称LCTEのマズウェルヒル第二校)で、当のアンクル氏をはじめ、ベテラン講師を招いて行われる。将来、犬の訓練士を目指している、また、愛犬のしつけに関して学びたいという人のために、プログラムは基礎的なことは全てカバーしている。例えば、子犬の選び方・発育段階等について、子犬の社会化・しつけ等についての基礎知識、愛犬の飼育上の悩み(ひっぱりぐせ、かみぐせ、無駄吠え等)の対処法、基本的なトレーニング用具の使い方、アジリティー体験、犬とダンスを踊ろうなど盛りだくさんである。全て「犬の幸せのために(In the dog’s interest)」というモットーに基づいて行われており、さらに「授業料分の価値あるコース」を目指し、初心者でも子犬のパピークラスを教えられるだけの「知識」を授けるという意気込みで行っている。ただし、ドッグトレーニングにおいて、十分な知識はもちろん必要であるが、それに伴う経験はさらに大切であるということを忘れてはならない。

今回は、「問題行動のある犬の扱い方」のデモンストレーションもあるので、乞うご期待。もちろん「ハンズオン(実践的)」というだけあって、トレーナーの犬が必ず参加しているので、練習台に困ることはない。また、犬連れでの参加も、無駄吠えがひどいなどクラスのじゃまになるような問題を持っていなければ可である。ただし、このコース参加のためだけに犬を飛行機で輸送するのは、犬にとってかなりのストレスとなるので、お薦めできない。

また、希望により、英盲導犬トレーニングセンター訪問、農場を訪れ、シープドッグショー見学にも参加できる。盲導犬のトレーニング、また、シープドッグのトレーニングは、ドッグトレーニングの元祖といってもよい。そのプロから、トレーニング方法について直接、学ぶ機会もあるというわけだ。

アンクル氏のコースは、基礎的、かつ実践的で、しかも日本語通訳つきであるため、これからイギリスでドッグトレーニングを学んでいきたいというビギナーの方にぴったりのコースといえる。

詳しいお問い合わせは、電話 : 020 8883 2438 (英語)、020 8444 2782 (日本語)
またはe-メールで(日本語可) japan@lcte.co.uk Ext_linkhttp://www.lcte.co.uk

(2004/06/23)

(ライター・小林信美 Ext_link Matilda the little Staffie!)

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