ノアの箱船

ノアの箱船

聖書創世記にあるノアの箱船は、邪悪な世界を変えようとの神の考えに基づいて、大洪水を起こし、選ばれた人と動物だけが箱船で生き延びたと言うものです。

今、この日本で捨てられる犬や猫達にとって生き延びられるチャンスはほんの僅かです。

「捨てることが恥ずかしい」と日本の大部分の人が身を持って感じてくれるようになるのはまだまだ先のことでしょう。

たくさんの哀しい犬達の中で、奇跡的とも言える「生き続けることが出来た犬」がいました。その子の名は乃亜ちゃん。心ある方の箱船に乗せてもらえた犬でした。

乃亜ちゃんと飼い主さんが少しづつ絆を築いていった経緯は、これから保護犬を迎える飼い主さん達にとって良い道しるべとなることでしょう。捨てられる犬がなくなって行くことを最終目標に、また動物管理事務所に保護という名のもとで殺処分される犬が1頭でも多く箱船に乗れるますよう祈りましょう。

(LIVING WITH DOGS)


こんにちは。初めてお便りします。私の家には推定4歳、雑種の男の子がいます。
彼は、3年半前、動物管理事務所から、たまたま居合わせた愛護団体の方の手により救い出されました。
ある本を読み、もし、次に家族に迎えるならかわいそうな子を迎えようと思っていました。

16年間、共に暮らした先住犬の「雪」が99年の12月5日に他界しましたが、充分な介護も出来ず亡くしてしまったという後悔の念で一杯でした。

雪が他界した3日後、愛護団体にコンタクトをとったところ、「ちょうど今日、動物管理事務所から連れて来た子がいるんです。」の一言に運命を感じずにはいられませんでした。それからお見合いを経て我が家に迎えたのが、12月25日。雪からのクリスマスプレゼントでした。「雪、ありがとう。大切にするからね」

名前はノアの箱舟にちなんで「乃亜」と名付けました。

我が家に来たときは軽いフィラリアと肝機能障害、その上、虐待の形跡もみられ、大変臆病な犬でした。病気は完治したものの、心の傷は未だに癒える事はありません。

それから、2年間は躾らしい事は一切せず、ただ家族に慣れるようしていきました。

怖がりなのは想像以上で新聞や傘が頭上を通るものなら「ぎゃわぁぁぁーん!」と泣き、石のように硬くなってしまったり、突然パニックを起こし噛み付いたりとしました。

さすがに噛み付きは叱りましたが、その後はいじけて一日中ハウスで小さくなっている状態でした。脚側歩行をさせようものなら散歩嫌いになる始末です。

2年たった頃、私も結婚し、時間に余裕が出来てきたので、そろそろ訓練をしようと日本救助犬協会の門を叩いたのです。

最初の1ヶ月は、輪の中にも入れずただ見学するのみでした。乃亜は先生方が話しかけようものなら私の後ろに隠れてしまう状態でした。

初心者クラスでの1年間は、周りの大きな犬を怖がり喧嘩になってしまいます。管理事務所にいたときにどうもお尻を咬まれたことがあるようです。犬同士のコミュニケーションはまったく取れないような状況でした。

プロの先生にリードを持たれると「こ、こ、殺されるぅぅぅ!!!」と悲鳴をあげていました。大声で叫んでいるのはいつもうちの乃亜。私は、さすがに凹む時期もありました。

でも、「もう、迷惑だから来ないで下さい。」と言われるまで通おうと奮起しつつ、少しづつ輪の中に入れるようになりましたが、騙し騙し参加していていつも不安で一杯でした。

基礎訓練や服従訓練を1年余りして行くうちに徐々にですが、彼も自信を取り戻したのか私との距離も少し縮まったように感じました。

そんな彼がほんのちょっと自信が付いたと思えたのはアジリティーでした。目が生き生きとして楽しそうにしているんです。私は嬉しくて続けていて良かったと思いました。

また、ちょっと暗い性格だった乃亜が明るくなり始めたのは、今年に入ってからでした。お正月、姉がペットショップで売れ残った犬と目が合ってしまい、パピヨンを家族に迎えたのです。

乃亜は当初、彼を嫌いウーウーと威嚇していましたが、天真爛漫な彼を見ていて乃亜なりに学んだ事があったようです。今では、2匹で家の中を走りまわり、じゃれるまでになりました。

また、ハーブが原料のリラックス効果のある物を服用させたり、たまたま行った公園で遊び上手な犬達(彼らもまた不幸な生い立ちを持つ子たちなのです)と遊んだりして、刺激となったのだと思います、そんな一つ一つの積み重ねが乃亜に良い変化をもたらせたように思えます。

そして、一番大切なことは、私も乃亜と一緒に楽しむことでした。

しつけ教室に行くと上級のワンコ達が大変素晴らしく、また羨ましいものに見えました。

そして、うまく犬を扱えない自分を棚の上に置き「どうして家の子は!」なんて犬に苛立ったりするものです。私はまさしくそうでした。

「もし、自分が今から英会話を習うとしたら、そんな気分で」と先生からありがたいアドバイスを頂いたときには、「目からウロコ」とはこうゆう事なのかぁと思いました。

今までの先入観から抜け出し、他と比べることなんて必要ない、ゆっくり、ゆっくり、やれば良いじゃない。そして私も心から楽しもうとそう思えたら、乃亜も私を信じてくれるようになったと感じています。

それからは、試験を受けるまでになり、比較的、難易度の高い服従Aを受けナント合格!!

3分間の伏せした状態で待てを掛け、ハンドラーは後ろ向きで待つのですが振り向いた瞬間、きちんと待てをしていた乃亜が愛おしく感じられてたまりませんでした。

トホホ…となりながらも「継続は力なり!」と思ったものでした。

先日も、二子玉川にて行われた救助犬協会のデモンストレーションに訓練生として参加させて頂けるまで成長することができたのです。

ですが、まだまだガブガブ犬でギャワン犬。乃亜とのトラウマ脱出計画完了までにはもう少し時間が必要みたいです。

乃亜との長い道のりを楽しんではいますが、このような犬がいると言うことは、心ない人間が犯した罪の結果だと思います。その人の犯した罪に対する償いなのかもしれませんね。

捨てるのも人間、救うのも人間。

しかしながら、一度、動物管理事務所に入ってしまった子や、虐待に合ってしまった子の心のケアは大変難しいとは聞いていましたが、本当に思っていたよりも大変で一進一退です。

試行錯誤の日々が今でも続いていますが、乃亜の将来は救助犬や訪問犬になれるかはまだ未知です、乃亜のような境遇の犬が世の中に知られること、そして、このような子たちも安住の地を得られるような里親制度が広まって欲しいと思います。また、身勝手な理由で捨てられ最期まで恨むことすら出来ず、諦めてごみ同然で灰になる犬達がなくなって欲しいと思います。人の役にたつ使役犬となる事で生きられる道が広げられればという気持ちで一杯です。

乃亜が心を取り戻せる日は、まだまだ先だとは思いますが、焦らず一歩一歩その日その日を楽しみながら歩んで行くつもりです。

不幸な動物達がこの世から1匹もいなくなる日を願いながら。

乃亜の箱船日記



(2003/07/29)(東京都、C.Sさん)

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