捨て犬ロク
2004年11月8日 [ドッグレスキュー・レビュー]
捨て犬ロク
[心に残る犬との思い出]
老いた病弱な犬が捨てられる。何故?あとほんの少しで天に召されるのに、その時に側にいてあげることでどれだけ安心して旅立てるだろうにと。愛犬の最後を看取りたくないから?介護が大変だから?理由は何とでも。でも、あとほんの少しなのに。ロクが生きた証をYさんご夫妻が心の底から書き留めて下さいました。 (2004/11/08)(LIVING WITH DOGS) ☆捨て犬・ロクとの出会い 初夏を思わせる5月のある日の夕方、家で待つハチとナナのためにいつもどおり終業ベルと共に急いで職場を後にした。駐車場へ向かう途中、道の真ん中に白いマルチーズが立っていた。”かわいいな。ノーリードなんだ。”と遠まきに見ながら車へと急いだ。”でも、待てよ。何か胸騒ぎがする。”車に乗り込み先程の場所へ戻ってみると、まだその犬は動かずそこにいた。よく見ると体をぶるぶる震わせている。近づいても逃げる様子もない。吠えて威嚇しようともしない。”おかしい!”抱き上げて「お家の人はどこかな?ここにいると、車に轢かれちゃうよ。」と話しかけ、抱いたままあたりを見渡したけど人影はない。歩いてその周辺を捜しても誰もいない。その間も犬は相変わらず体を震わせたままだ。”きっとこの子、病気なんだ。とにかく獣医さんへ連れていかなくっちゃ。飼い主を捜すのは後にしよう。”ハチとナナに悪いなと思いつつも、とにかくかかりつけの獣医さんへ急いだ。
獣医さんは「かなりの老犬だねぇ。10歳は超えてるんじゃないかな。心臓が゙悪いようだし、乳腺腫瘍もある、それに両膝とも膝蓋骨脱臼してるようだな。とにかく一通り診てみましょう。」と言われたので、今日は預かってもらって診察をお願いした。すぐにまたもと居た場所に戻ってみたけど誰もいなかった。”捨てられたんだ。きっと。”
次の日はお休みだったので、主人と二人で警察へ行き、事情を説明。保健所と動物保護管理センターにも連絡した。その後、捨てられていた場所の近くを一軒一軒尋ねて歩いた。 ヒザが悪く、長い距離を歩ける状態ではないので、きっと近くの子だろうと思ったのだが手がかりなし。捨てられていた場所の近くには不用犬引取場所があり、「誰かが捨てていったんだよ。」と、みんな口をそろえて言った。”やっぱり、そうなのかな。”
結局、何の手がかりもないまま獣医さんへ迎えに行った。獣医さんからは「この子は大変だねぇ。昨日も言ったけど、心臓は僧帽弁閉鎖不全をおこしていて腹水も貯まっている。両足も膝蓋骨脱臼が慢性化しているようで歩行困難。膝のお皿がずれてしまっていて元に戻せない状態になっている。乳腺腫瘍もかなり大きくなっていて、良性か悪性かは検査しないと分からないけど。目も白内障で、ほとんど見えないようだし、耳もかなり遠くなってるようだ。歯ももうボロボロだよ。とりあえず、心臓と膝の薬を一週間分出しておくから飲ませてあげて。」 「ほのかにシャンプーの匂いがするから、かわいがられてたんだよ。きっと。そのうち飼い主が現れるでしょう。」と励まされ、先生は診察代や薬代を一切受け取らなかった。「飼い主が見つかるまではいいよ。」と言ってくれる。ナナの時もそうだったが、ほんと、やさしい先生だ。感謝!”よし、がんばって飼い主を捜そう。” それからもいろいろ手を尽くしてみたが、飼い主は見つからない。でも、私たちは決めていた。”ウチの子にしてあげよう。”と。あの日抱き上げた瞬間、この子の人生を私たちがまるごと抱え込んだんだ。名前は『ロク』(一番目がハチ(8)、二番目がナナ(7)、三番目だからロク(6))に決まった。
ハチやナナには本当に申し訳ないけど、あなたたちのための時間を少しだけロクに分けてあげてね。時間は減っても、あなたたちに対する愛情は少しも減らないから。 『老い』というものを、ロクを通して見つめてみよう。ハチやナナにも必ず訪れる『老い』を、今から勉強させてもらおう。そしてロクには、ここに来て本当に幸せだったと最後の日に思ってもらえるよう、がんばろう。 二人と三匹。忙しく楽しい毎日が、一日でも長く続きますように。
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☆ロクへの想い
寝る前に、ロクのケージを覗きに行く。ロクはケージの中で座って、鳴けない声で鳴いて何かを訴えている。見ると、案の定ウンコとシッコがしてあった。汚れると、さすがに気持ち悪いらしく、鳴いて知らせる。 汚れた足を拭こうと、しばらく腹の下を持ち上げて抱いていた。悪化した心臓が大きく鼓動しているのが手の平を通じて伝わってくる。きれいになったケージへ戻すと、ロクは苦しそうに呼吸してヘナヘナと座り込んでしまった。見えない目で一点を見つめて、一生懸命呼吸している。その間、私は頭から背中にかけてさすってあげる。 “一体、何が楽しくてロクは生きているんだろう”ふと、考えた。でも、すぐに打ち消した。”そんなこと考えるのは人間だけだ”って。人は、何の楽しみもないような人生は無意味だと思ったりする。必死に自分にとっての”生きがい”を捜そうと模索する。もし私がロクだったら、信じていた飼い主に捨てられ、老いと病気で苦しんでいたなら、生きていても仕方ないと考えたかもしれない。でも、ロクは違う。違うと思う。生きようと思って生きてるんじゃない。与えられた”命”に迷うことなく、まっすぐに、自然に生きているだけなんだ。 “生”に対するひたむきさに、涙が出そうになる。ロクが苦しまず、残された犬生を全うさせてあげたい。 同じ”群れ”の一員として、私がしてあげられることは、苦しいときにそばにいて、こうして背中をさすってあげるくらいしかできないのかもしれない。そう思った。
☆ロクとの別れ
2000年2月12日(土)午前9:00 ロクが死にました。 “お星様になった”でもない”天国に行った”でもない。ロクが死んだのです。 「オリオン座の真ん中にある3つの星の一番下をロクにしよう」と2人で決めた。 でも違う。ロクは死んだのです。 既に体は硬直し、箱の中で横たわっている。私たちが朝起きるまで待っていてくれたロク。 起きて来た2人を見届けて、トイレを済ませて死んだ。 ロクらしい最期でした。 私たちに迷惑はかけまい、でも最期に一目だけでもという思いだったのでしょう。 本当の飼い主に捨てられ、私たちが保護した日。ロクは私たちに申し訳なく思っていたのかもしれない。”一人では生きていけないから、お願いします”と哀願していたのかもしれない。私たちの手を何も煩わせることなく逝ったロク。 9ヶ月の間、甘えたい気持ちと申し訳ない気持ちの葛藤で苦しんでいたのかもしれない。 “ロクはやっぱり大人だな” 甘えたい本当の気持ちを私たちは見過ごしていたのかもしれない。 末期の心臓病で苦しかった最期の1週間。私たちに訴えるでもなく、最後まで一人で苦しみと闘ったロク。人間にもできないような孤独と苦しみの中を、あんな小さな体で耐えていたんだね。 ゴメンね、ロク…。 私たちは体をさすり、声をかけ応援することしかできなかった。 今は天国で元気に走り回っていることでしょう。おいしいものを食べたいだけ食べ、眠くなったら眠る。遊びたくなったら大勢の仲間たちと遊んでいることでしょう。もしかしたら元の飼い主とめぐり合い、幸せに暮らしているのかもしれない。 そうあってほしい。たまには私たち家族にも会いに来てね。 次に来る子は、生まれ変わったロクが私たちのところへ来てくれたんだって信じてるから。 さよなら、ロク。
☆ロクへの手紙
ロク、天国で元気にやってますか? ロクがいなくなってから、もうすぐ1年。そういえば去年の今頃もすごく寒かったね。 ロク…もう1年経つから時効かな?ほんとのこと話すね。 あの日、ロクが私たちの所に突然現れた時、私たちはきっと元の飼い主が現れるだろうって最初は気楽に思ってた。獣医さんもそう言ってたよね。目も耳も足も悪く、こんなかわいそうな子を飼い主がほっとくわけないって思ってた。 ロクは家に来てから夜鳴きがずっと止まなかったね。遠吠えにも似た悲しい声。きっと元の御主人様を想って鳴いていたんだよね。それに気づかない私たちは、このまま元の飼い主が現れなかったらどうしよう、ずっとこの状態が続くの?と、落ち込んでしまい、一時は最悪の決断まで考えてしまった。でもロクは、しばらくして夜鳴きが治まった。御主人様がもう迎えに来てくれないことをわかったんだね。 それからのロクは、私たちが仕事から帰ってくると、吠えるけど尻尾をぶんぶん振って迎えてくれたよね。ハチと一緒に少し散歩のお供をしたり、不自由な足ながらもお庭で自由に歩き回ったり、近所の子供が遊びに来てくれるとうれしそうに撫でられてたね。短い間だったけど、幸せだったね。 秋が過ぎ、冬が来て、夏にはあんなに元気だったロクが寒さとともに急速に衰えてきて、私たちは朝起きたときや仕事から帰ったときにロクの様子を見るのが、ほんと不安だったよ。初めて経験するだろう”死”に直面するのが怖かった。そんな私たちに、ロクは”死”というものを優しく教えてくれた。 今、すごく後悔してることがあるんだ。もっとロクを抱きしめてあげればよかった。先住犬のハチに気を使って、匂いがつくことに気後れしてあまり抱っこしてあげられなかった。ゴメンね。もっと抱っこして、やさしく撫でて、人のぬくもりを感じてもらいたかった。 ロクは決して元の飼い主を恨んではいなかったよね。安らかなロクの死に顔を見てほっとしたよ。 ロク、前の飼い主さんに報告に行った?私たちにはその人に伝えるすべがないから。 今、ロクの写真を見て、涙しながらこの手紙書いてます。 いつまでたっても悲しいね。私たちの家の子ロク。ロクが来てくれて私たちはほんと幸せだったよ。だから今、こんなに涙が出てくるんだよね。ロク・・・ほんとにありがとね。
(2004/11/08)(愛知県 T.Yさん) |