英国RSPCA取材記

英国RSPCA取材記

一ヶ月近くに渡る英国動物虐待防止協会(RSPCA)の取材を終えて感じたことはたくさんありました。取材する以前からある程度のことは理解しているつもりでしたが、取材を進めるにつれて英国の動物愛護のあり方やチャリティ団体の力をあらためて認識しました。

1824年に小さな動物福祉活動をしていたグループを経てスタートしたRSPCAは世界で最も古い動物愛護団体であり、しかも人間の警察よりも早くに組織されていた事実には驚かされました。

さらにRSPCAはチャリティ団体で、人々の寄付金でこのような大きな組織が運営されています。英国にはチャリティ団体がたくさんありますが、ここでは古くから弱い者を助けようという考えが定着しており、国民はチャリティへの寄付に積極的です。そのチャリティでは人間のよりも動物のチャリティの方が寄付金が集まると言われています。これには驚きました。RSPCAの責任者になぜそうなのかと疑問をぶつけると「話ができない動物はなかなか苦しみを訴えることはできません。だからこそ彼らを守っていくというのがわれわれの考えなのです」と答えてくれました。この弱い立場の者を守ろう、助けようという考えがリホーミング(里親探し)の数にも反映しているのだろうと納得しました。

英国では現在、家庭で飼われている13.6ミリオンの犬猫のうち、猫は40%、犬は32%がリホーミングによるものです。

この数から見ても同じ飼うならかわいそうな境遇の犬猫たちを一匹でも救おうとしていることがわかります。私も犬の散歩で多くの飼い主と出くわします。この人たちと話をするとほとんどの犬はチャリティ団体から購入した犬、リホーミングした犬です。彼らは「家族の一員として楽しく暮らせるならどの犬でも同じ。」と言い、犬のことを「ナイスカンパニー(良き仲間)」という言い方をします。飼い主のそういう考え方がRSPCAなどの動物愛護団体の活動を支えているのです。

RSPCAの保護センターを取材した時、飼い主と犬のいろんな場面を目にしました。

ある女性はボーダーコリーを連れて悲しい顔をしてセンターにやって来ました。私は「今日はどういう用件で来られたのですか。」と尋ねました。すると彼女は言いにくそうに「突然海外に移住することになり家の事情で犬を飼うことができなくなったのです。」と話しました。そして彼女は犬のデーターをリホーム用のフォームに記入するRSPCAスタッフの質問に答えていました。犬は何かを察してか落ち着かない様子で飼い主の周りをうろうろしていました。飼い主もそれを知っていて終始なぜて落ち着かせていました。飼い主が犬を愛しているのが良くわかりました。すべての手続きが終わると彼女は財布から15ポンド(3,000円)くらいのお金を取り出してRSPCAに寄付をしました。RSPCAでは犬を引き取ってもらうための規定の金額はなく、飼い主の寄付という方法を取っています。

飼い主の目には涙がいっぱいたまっていました。

いよいよお別れの瞬間が来た時、彼女はリードをスタッフに渡し、犬の方を見ることもなくす早く立ち去って行きました。その彼女の気持ちは非常によくわかりました。

犬はスタッフに励まされながら別の部屋に連れていかれました。犬は飼い主がいないことを不安に思ったのか吠えていました。一連の様子をじっと見ていた私は、いたたまれなくなって思わず涙がこぼれそうになりました。犬が家族の一員とはこういうことなのだと思いつつ、どうか良い飼い主が見つかるようにと祈らずにいられませんでした。

それとは逆に、飼っていた犬が亡くなったからという理由や生活をより豊かにするために動物をみつけにやって来る人たちがたくさんいました。人目ぼれしてすぐに動物を決める人もいれば好みの動物がみつかるまで何度も通う人もいます。こうしたたくさんの引き取り手がいてリホームセンターが成り立っているのです。

国民に支えられているRSPCAではありますが、長い時間をかけて作り上げてきた徹底したシステムが飼い主の意識を高めているとも言えます。虐待通報があるとアニマル・ポリスがすぐに出動し、指導、摘発し、保護した動物は管理してリホームさせる努力をしています。

英国は動物愛護の国なのにどうしてそんなに虐待が多いのかと疑問に思われる方も多いようですが、これはRSPCAという動物愛護団体が力を持ち、厳しく取り締まっているからこそ国民の見る目も厳しくなるのです。それに伴って飼い主に求められる責任は大きくなっているのです。飼い主が人に迷惑をかけないようにペットをコントロールすること、飼った以上は最後まで家族の一員として責任を持つのは当たり前のことだと認識しています。しかし通報で一番多いのは飼い主が動物の対応をわからずに飼っていて、自分が不適切な対応をしている(虐待に値することをしている)という自覚がないケースです。番組の中で紹介したハムスターの飼い主もその一人です。彼女の家に行くとハムスターの本や、鳴き声のカセットテープなどが転がっていました。そして彼女は泣きながら「私は虐待していない」と主張し続けていました。彼女はハムスターを愛していたことは確かだと思いますが、飼い主としての自覚や飼い主として求められていることがよくわかっていなかったのでしょう。日本でもこういう飼い主は多いと思いますが、英国ではそれを指導することができるアニマル・ポリスがいます。動物愛護という点で彼らの存在は非常に大きいと思いました。

しかし、みごとに機能しているRSPCAでも問題は幾つかあります。

アニマル・ポリスが一生懸命摘発して、保護してリホームセンターに連れてきても、管理する十分な場所がない、保護する数が多すぎてリホームが追いつかず、しばらくして引き取り手がなければ安楽死させてしまうケースも少なくないようです。RSPCAは安楽死を公表しませんが、一部の動物専門家、ジャーナリスト、他の愛護団体は「年間70ミリオンポンドもの寄付金を集めているのに、一部の幹部が高い給料をとって一番重要な保護センターを充実させることをおろそかにしている。スタッフの給料も安いし、多くの仕事はボランティアでさせている。人々の好意を無駄にしないためにお金の使い方をもっと考えるべきだ」とRSPCAの運営の仕方を指摘しています。

RSPCAの本部は新築されたばかりですが、驚くほど立派な建物でした。これから考えると彼らの指摘はうなづけるような気がします。

英国が長い歴史をかけて作り上げてきたペット社会から考えると日本はまだまだこれからだと思います。このような管理組織が少しでも早くできれば、多くの動物たちが救われることでしょう。そのためには法律の改正、資金の問題、など解決する問題はたくさんあると思います。時間がかかることだと思いますが、飼い主一人一人が動物を飼うことへの責任を再認識し、徐々にペットを受け入れられる社会が形成されていくことを期待しています。

(2002/07/15)(Mie Kikuchi, London, UK) Ext_link PET COUNSELLING today

サブコンテンツ

カテゴリー

このページの先頭へ