“Chelsea – The Story of a Signal Dog” by Paul Ogden

“Chelsea – The Story of a Signal Dog” by Paul Ogden

オグデン氏は生まれつきの聴覚障害者で、レスキューした雑種犬をsignal dog (この人はhearing dogという表現は好きでないようです)として独学で訓練しました。 でも、この犬が早くに亡くなってしまったので、Canine Companions for Independence (CCI)という組織に、Signal Dogの申請をしました。本の2/3程度は、CCIでの2週間の特訓の 様子で、実にこれが大変なものだったかが述べられています。

CCIでは、聴覚障害者用のSignal Dogと、肢体不自由者用のサービスドッグ両方の訓練 をしています。
聴覚障害者と肢体不自由者15名が参加した特訓では、まず彼らが介助犬との生活に向いて いるか、心の準備ができているかをつっこみ質問で攻めます。ここで、ワーキングドッグ との生活で一番重要な、リーダーとしての資質を試されます。
著者は、「障害者は人に助けてもらうことに慣れてしまい、強く主張する態度 (Assertiveness)に欠ける場合がある」とし、これはワーキングドッグとの関係では大きな 問題になると書いています。この2週間の特訓をクリアできない人は、犬無しでこの施設 をさらなければいけないのです。

この訓練は朝9:00から始まり、ランチもレクチャーを聞きながら、夜は、犬を連れての 外出練習もあり、ほんとに朝から晩までぎっちりです。犬たちはなーーんと96種のコマ ンドを理解するように訓練されているそうです。受講者たちは、これらのコマンドの マスターを2週間で行なわなければなりません。

インストラクターがやると、ばっちりなのに、受講者達が同じ動作をしても、うんとも すんとも通じません。それは「犬との心のきずながまだできてないから」だそうです。 この”きずな”の形勢のために、まるまる1週間リードを手首に結びつけ、寝るときも、 トイレも、シャワーするときもずーーっと犬と一緒の”ひもつき訓練”を行なうんだそうです。 これは車椅子の肢体不自由者でも同様に行ないます。

  • 2週間の間、トレーナーは受講者たちに繰り返しいうことにひとつに、「介助犬は、 電化製品じゃありません。ボタン押したら、必ず動作するというものではありません。」
  • CCIは犬と人との相性を重要視し、大体3匹くらいの候補犬を用意します。オグデン氏は、 申請書にはジャーマンシェパード(GSD)が好きと書いたのに、行ったら第1候補として渡さ れたのがなんと、コーギーでした。これは大失敗、お互いにいまいち好きになれなかった。 次の日は、スキッパキー(黒いシッポなしスピッツといった雰囲気の犬です)。 オグデン氏は体格が大きく、大型犬を飼っていたせいもあり、「ふみつぶしてしまいそう」 でボツ。結局ベルジャン・シープドッグのチェルシーに落ち着きました。GSDが与えられな かった理由に、オグデン氏の性格に”親分肌が欠ける”ことがあげられたそうです。 比較的大型な割に、マイルドな性格のこの犬と著者の相性はばっちりのようです。
  • この訓練は1983年ごろですから、まだ介助犬が今ほど知れ渡ってないこともあり、 様々な問題にも出会います。まず一つは、ワーキングドッグが仕事中は、よその人は 触ってはいけないということが認識されていないこと。訓練の一つで、ショッピング モールに出かけると、子どもや大人が寄ってきます。その時聴覚障害者である著者は 話せるのですが、あまりクリアにしゃべれないこともあり、また、相手の気分を害さず に断ることに苦労しています。
  • この2週間の訓練の間、結局一人は脱落(理由は細かくかいていなかった)。 一人は落とされそうになるが、泣きながらCCIのトレーニングを忠実に守ることを約束する 書類にサインし、どうにか維持。
  • 訓練の中のもっともつらいことの一つに、自分の障害に関しての気持ちを皆の前で 述べるグループセラピーです。言いようのない怒りや触れたくない気持ちを、多かれ 少なかれ持っているわけですが、これをあからさまにし、その気持ちや障害とどう付き 合って行くつもりでいるか?が問われます。 例として、「仕事でいらいらした男は、家に帰り妻をぶつ。妻は、いらいらし、子どもを ぶつ。子どもはいらいらし、犬をぶつ」をあげ、CCIの犬がそういう目に合わないためにも、 精神力が試されます。CCIは「選ばれた人たちに、訓練した犬を供給する組織です。 だれにでも介助犬を与える分けではありません」

待ちにまった最終テストです。今までは、外出などは全部グループ&トレーナーで行われて いましたが、はじめて犬とふたりぼっちで外出です。リストを渡され、そこに書いてある ことを実行します。

  1. バスに乗ってショッピングモールに行く。
  2. 所定の店で、ビタミンを購入。レシートは犬が受け取る。
  3. カフェテリアでコーヒー。
  4. エレベータにのり、ゲームセンターにいく。パックマン(なつかしー)をする。
  5. 指定のレストランへ行って昼食。
  6. バスに乗ってセンターに帰る。

一応問題無く実行し、センターに戻ってきたら、見たこと無い人たちがたくさんいる? と思ったら、町中にボランティアの”スパイ”が仕掛けてあったのでした!
モールで親しげに「かわいいわんちゃんねー、触っていい?」と話し掛けてきたおばさん もスパイの一人でした。スパイからの評価報告で、オグデン氏は、”丁寧に上手に断りまし た”とのこと。この評価報告で、CCIの基準に達しないようなことをした人 (エレベータのボタンは犬が押すはずなのだが、そばにいた人に頼んでしまったなど)は、 再テストです。

最後にセンターを出た後の生活です。

  • 他の障害者&サービスドッグと知り合いになり、様々な経験を聞くと、聴覚障害者 でも上手に話せる人、および犬の種類がいかにもサービスドッグっぽい犬 (ラブ、ゴールデンなど)ではない人(コーギーなど)は、レストラン・店・空港などで 断られることが多くあるようです。
    IDを見せて、サービスドッグはどこにでも入れることが法律で決められていること を示しても、信じない人や(障害を)疑う人などにも出会ったそうです。 そういう時は、丁寧に、でも辛抱強く、権利を主張します。
  • 著者は大学の教授なので、出張やレクチャーなどで飛行機ででかけることもあり、 そのときサービスドッグは飛行機に一緒に乗ります。座席は前に席がないところ (非常口前?)を指定し、犬が横たえるようにします。それでも、無知なガードマンが 空港入り口で行く手を防ごうとした時、著者は、”聞こえないふり”(本当に聞こえないの ですが、唇を読めます。でもそれもできないふりをする)をしていると、周りにいた人が ガードマンに、著者が聴覚障害者でサービスドッグは空港に入る権利を持つことを説明 したそうです。
  • 犬は様々な状況に対応できるように訓練されていますが、個々の環境によりニーズは 変わります。そこで、いわばコマンドの”引き算”が必要なこともあります。 例えば、電子レンジのチンには反応しなくて良いよ、とか、バスでどこかの赤ん坊が泣い ていても反応しなくても良いよとかです。
  • パピーウオーカーの方と文通しいろいろ情報交換されたそうです。CCIは今でもそう なのかは不明ですが、チェルシーのいた家は複数のCCI候補犬を預かっていたそうです。 主に小型犬(コーギーなど)を担当していたそうです。実はチェルシーは、 とーんでもなくいたずらっ子で、「何度もパピーウオーカーを挫折しそうになった」 そうですが、オグデン氏が出会ったころは、そんな気配は微塵も無いりっぱなサービス ドッグに育っていました。(でもテーブルの上に乗っていたバターをぺろりと全部食べた りしたそうですが。)
     

(97/12/28)(バンクーバー在住・Kさん)

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