補助犬の質の維持・向上について
補助犬の質の維持・向上について
障害者の自立、社会参加、生活の質等の向上を目的として、身体障害者補助犬法が施行されました。
補助犬と言われるのは、盲導犬、聴導犬、介助犬です。
目の不自由な方のための盲導犬は既に日本での盲導犬第1号のチャンピイ (昭和32年)の時代から40年以上、徐々に社会に認知されてきました。
しかし、聴導犬(聴覚障害者の耳となる犬)や、介助犬(肢体障害をもたれる方の手となる犬)は、日本では、まだまだ稼働頭数は少なく、また正式に認定を受けている頭数も少ないと言うのが現状です。
盲導犬は、国家公安委員会が指定した盲導犬協会での1年間の厳しい訓練の元、認定され、はじめて実働犬となります。盲導犬の育成と認定は、同一団体が行っています。
現在、介助犬、聴導犬の認定は2種類に分かれます。ひとつは、育成団体や各訓練所などがトレーニングし、ユーザーへの貸与後に、厚生労働省に書類申請で暫定的に認定を受けた「暫定認定犬」です。有効期間は、2004年9月末日までになります。もうひとつは、厚生労働大臣から「指定法人」と認められた社会福祉法人または、財団や社団法人から認定試験を受けて合格した「認定犬」です。この認定試験に合格して初めて正式の補助犬になれることになります。
この指定法人には、兵庫県や横浜市のリハビリテーションセンター、山形県の介助犬協会、長野の聴導犬協会の4つが、認可されています。
介助犬や聴導犬は、盲導犬のように血統を重視した犬から計画的に繁殖した候補犬のほか、保護された犬を保健所や動物シェルターから引き取り訓練して育成し、障害者に貸与したり、または、飼い主やユーザーさんが、愛犬の訓練を訓練所に委託し、ご自身の介助犬や聴導犬にする場合があります。
介助犬シンシアと暮らす木村さん、聴導犬では美音ちゃんと暮らす松本さん、お二人の場合は、愛犬をご自身が求めご自身の費用で訓練所で訓練し、自分にあった補助犬とされました。お二人とも厚生労働省による正式な認定犬として現在活躍中です。
補助犬は、盲導犬、介助犬、聴導犬にかかわらず、先天性の障害をもたれるユーザーや、病気や事故で障害を持つことになってしまった中途障害者の方々の、個々の障害にあわせて行なわれます。ここで必要なことは、ユーザーである障害者の障害の進行に合わせ、補助犬の訓練を定期的に見直す長年にわたるアフターケア、そして補助犬としての仕事の質を保つことが求められます。そして大事なことは、補助犬が、自分のユーザーさんの自立と社会参加を促進できるように、どこにでも困難なく、同伴できることでしょう。
介助犬や聴導犬の補助を受けたいという障害者の方にとって、確かにこれまで一緒に暮らしてきた愛犬が、訓練を受け、補助犬となり、飼い主さんの耳となり手となることは嬉しいことです。愛犬に訓練をさせ、お仕事をしてもらえることは、愛犬との暮らしを今まで以上に、楽しく充実させるものにするかもしれません。
しかし、よく考えてみる必要があります。
これまでの家庭犬と同じようなレベルの訓練では、事故や問題が起きる危険性もあるということをです。
例えば、公道や公共の交通機関を利用する障害者と同伴する盲導犬は、一般の人達に危害を加えてはなりません。ですから、盲導犬の場合は道路交通法に位置づけられており、国家公安委員会が認定団体を指定しています。
聴導犬や介助犬も、盲導犬と同じで、一般の家庭犬で許されることでも、補助犬はしてはならないことがあるんですね。
例えば、すべての補助犬のトイレは決まった場所で実働前にユーザーさんのコマンドでさせなければなりません。お散歩中にマーキングは絶対にさせてはなりません。また補助犬は身体のどこを触られても吠えるようなことがあってはいけません。
これらのことは一般の家庭犬でももちろん求められることですが、飛行機の機内や電車の中、極端な場合は、火災警報器がなりひびくような状況でも、平常心を保てるようにしつけられる飼い主さんは、極わずかでしょう。
しかし補助犬は完璧にこなせなければならないのです。
盲導犬のベルナのドラマでも皆さんはご覧になったことがあると思いますが、仕事中の盲導犬は、蹴られても、タバコの火を押しつけられても、吠えたり、噛みついたりしません。ドラマの中で、何をされてもじっとしているベルナの姿には感動したことと思います。
近ごろ、「我が家の愛犬を補助犬にしたい」という要望が多いと聞いてます。正式認定された補助犬では、もちろんマナーやルールの違反はないでしょう。
しかし、残念ながら暫定認定犬の中には、十分なマナーを実践しているとは言えないような状況をあちこちで散見するようになりました。このような暫定認定犬でも補助犬というベストを着ていたり、タグをつけていたりします。一般の家庭犬との区別のためのベストやタグですが、補助犬の名誉を損なうような振る舞いのユーザーさんや補助犬がいたら、「なんだ補助犬なんてこんなレベルなの?」とがっかりしてしまいます。そんなことになってほしくありません。
このように補助犬としての仕事のレベルの維持と、生活上のルールやマナーは、ユーザーである障害者とその障害者の援護者が常に守らなければならないものです。せっかく出来た補助犬法を有意義にもっと進化させるためにも、補助犬の質を保ち、より向上させなければならないのです。
育成訓練指導者は、補助犬の質を定期的にチェックし保ち、常に一般家庭犬よりも厳しいマナー意識をユーザーさんへ教育していかなければなりません。
補助犬の認定基準はあくまでも、障害者の補助業務だけで計るのではなく、盲導犬のように社会との接点を実地にテストし、一般常識以上のマナー意識を十分に考慮しての基準であるべきと思います。また、動物福祉を考えても、各々犬たちの適性の面でも、判断されるべきです。
暫定認定補助犬の現状は、真剣にパートナーと共に社会進出を考えて努力している障害者(と補助犬)の足を引っ張るような状況になりかねないとLIVING WITH DOGSはちょっと不安に思うこの頃なのです。
(2004/02/25)(LIVING WITH DOGS)
参考資料 : 身体障害者補助犬法を知っていますか?
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