犬の遺伝性疾患を考える (家庭犬記事その5)

犬の遺伝性疾患を考える (家庭犬記事その5)

JKC家庭犬で取り上げられた遺伝性疾患についてですが、1回目は「遺伝性疾患削減の推進には」、2回目「世界の股関節形成不全(HD)の取り組み」として、当サイトでご紹介しています。
家庭犬7.8月号ではJKCの理事を交えての座談会でJKCとしての考え方が紹介されています。10月号で座談会の後半が掲載されています。ご紹介しましょう。(2005/12/13)(LIVING WITH DOGS


JKC家庭犬座談会から(要約)

永村:特定犬種の特有の遺伝病がリストアップ「犬種と症病」されているとありますが、次はどういう手順に行きますか?

小川:獣医師、ブリーディング者に、公表し、広く知らしめることです。そして世界とタイアップして遺伝子レベルに持っていくことですね。

永村:少なくとも、ブリーダーは繁殖した子犬の中に異常なものが出たら、ブリーディングストックは遺伝子の検査をしなさい、と言うことですか?

小川:牛の場合は、最終的に登録協会が色々とやって情報公開するかたちに持っていきました。

中澤:協会がもっていったわけですか?

神里:股関節形成不全とか、最近、小型犬に増えている膝蓋骨脱臼についても、軽症で痛がらなければ日常生活も困らないので飼い主が気がつかないことがあります。

陰山:遺伝性疾患では、致死的な疾患はそんなに増えることはないです。遺伝的要素はもっているけれど重症にならなければ症状に出ないと言う疾患が増えるのです。

永村:股関節形成不全がどうして今、陰山先生のネットワークの事業になってきたかの経緯がありますよね。最初どんなブリーダーも、自分が繁殖した犬の中に遺伝性疾患があることを知られるのは嫌だ、うちは無いよ、公表するのは嫌だという思いがあると思うのですが、どのようなキッカケで、どうしてネットワークが出来たのですか?

陰山:逆にブリーダーの方で、自分のところはきちんと検査して努力しているという事実を公表したい方が沢山います。というのは、遺伝性疾患を全くもたない動物はいません。逆に持っていることが前提で、それを防ぐために最大限の努力を私たちはしていることを公表したい方が沢山います。努力しない方と努力している方との差別化を図るために。AKCの血統書に検査結果を載せることもその一つです。日本ではやってくれる検査機関が無かったので、アメリカに送るしかありませんでした。アメリカのOFAのデータベースの中に日本の情報が埋もれてしまうのです。これは日本の犬にとっては大きな問題なのです。というのは、日本の中で増えている疾患は何なのかというのが、まったく解らないのです。OFAは海外のデータベースですから、日本は日本でデータベースを作っていくべきだと思っています。

永村:うちの犬舎から出る犬についてはチェックをしているから、よそと比べてずっと遺伝病の発生率は少ないよ、ということをアピールすることですね。

陰山:はい、科学的に発生率は明らかに低下させることが可能です。しかしながら完璧に検査しても出る場合がありますが、その疾患の重傷度は非常に軽度になります。その点を多くの人が理解していただくことも重要です。

五十嵐:自分たちで完璧にチェックしていても、いつ出るか判らないんです。

小川:それは遺伝的レベルで判っていないからです。

中澤:フォン・ウィルブランド病のような血液的な問題というのは非常に難しいです。骨・関節などのほうが明らかに診断しやすいものです。症状が出ている犬はブリーディングから外すという最低限のことがしやすい。

小川:遺伝病には、遺伝の様式があって、優性と劣性があり、優性というのは親が持っていれば必ず子供に出る。しかし劣性は子供に出ずその血統に残る可能性が高いわけです。

永村:そうなると、規制というような検査はおよそ出来ないでしょうね。うちのはよそよりきちんと検査しているんだというところに、何かきっかけを求めて、股関節形成不全をひとつの遺伝病のトップランナーとして位置づけ、これは少なくともJKCの血統書に載っています。じゃあ、うちのは載ってるから大丈夫なんだということが普及してくると、この病気についてもやって下さいということになってくるんですね、徐々に。

陰山:そう言う意味では個人情報の問題もありますので、オーナーさんが情報公開を望まれる場合に限って公開します。ブリーダー、オーナーの方も含めて自分の意志で公開を決定していただく必要があります。検査結果をすべて公開しているのはスウェーデンです。世界で唯一ですが、その場合、劇的に遺伝性疾患を減らすことが可能です。

神里:陰山先生の記事を読まれた方が、子犬を求めるとき、どこならば安全かと迷う方もいるのではと思うのですが。

陰山:そう言う意識になりますよね。だから、ちゃんと検査をしている犬舎、していない犬舎からと、安全性の高い方をと迷う方もいると思いますが。

中澤:JKCはそういうお尋ねの方には、検査をしていただいて、ちゃんと合格したものは、血統証明書に載っております、と申し上げるしかないんです。

小川:牛の遺伝病で、病気が出たら指定し無くなるまで追求する。なんとしても繁殖を避ける。組織として取り組んでいく。

永村:牛の場合は大きな損失がありますから、犬は経済性とは異なるかもです。和牛のシステムの導入は難しいでしょう。

小川:犬種毎の遺伝病を公開することを最初にはじめれば良いのではないでしょうか?

神里:少しづつ減らしていくということですね。

永村:家庭犬に陰山先生の論文を書いていただいた時も、犬種毎にこういう遺伝病があるというリストを出していただいたのですが、関係者はびっくりしていたそうですね。

五十嵐:リストは最初にだされれば、逆に安心できます。ブリーディングするには直面しますから。リストは出しておくべきです。

神里:欲しい犬種が決まっている方は、犬種の特性、可愛い、でもこんな病気の特質もあるということを知って飼うか知らないで飼うのとは全然異なりますからね。

中澤:学会では、外国はガンが多い犬種の順位が出ますが、ゴールデンがトップです。いやな思いがするんではないか、需要が減るんじゃないかと思いました。ボクサーは3番目です。そんな発表をみてドキッとすることがあります。

永村:宿坊さん、ダックスの遺伝病は椎間板ヘルニアが一番有名なんですか?

宿坊:目の疾患が一番ですね。

五十嵐:毛色によって目の疾患が多いでしょう。

永村;やっぱり関連があるんですか。

五十嵐:プードルもアメリカではPRAの診断結果にABCとランク付けしてます。日本のプードルは優秀で、アメリカでもショーで勝てるんですが、日本のプードルが欲しいと頼みに来る外人は目のことを聞いてきます。AかBかと。

永村:PRAは日本ではノーチェック状態なんですね。

中澤:一部の先生はやってますが、すべての獣医師が検査できるわけではありません。目の検査は1年ごとにする必要があります。目の検査は、生後4ヶ月からチェックしないと遺伝的なものか判りません。白内障は5才になると老齢性と診断しても良いわけです。ですから非常に問題があります。

永村:陰山先生、ネットワークでは、股関節、肘、膝の3つですか?

陰山:目に関しては、欧米では検査登録しています。日本の場合、検査獣医師のかなりばらつきがあります。アメリカやヨーロッパでは目の専門医がいますので、専門医が診断すれば結果となります。また、遺伝子の診断が確実ではありませんから現時点では現実的ではありません。

永村:今、診断を下している頭数は年間どれくらいなんですか?はじめられて3年たちますが各年度では、どれくらいの比率で増えてきているんですか?

陰山:1600頭位です。股関節、肘関節、膝関節のセットで検査される方が増えています。初年度、2年度、3年度と倍位に増えてきました。評価依頼される方の目的は、愛犬の健康状態を詳細に調べるため、もう一つは遺伝性疾患を減少させるためです。

永村:オスですか?

陰山:オス、メスあまり関係ありません。

中澤:私どもなどはメスが多いですね。繁殖したいのでチェックしていただきたいということです。

小川:ネットワークに様々な問い合わせがきて、検査要望が来たとき、受け皿がしっかりしていないと間違った結果がでてしまうのは問題ですが、受け皿はしっかりしなければならないと思います。もしもネットワークを使うのであればデータをどう返すかというのが大きな悩みです。

陰山:検査結果に対する飼い主の質問やブリーダーの質問、事務手続き等をこのネットワークで全部行う。もうひとつは将来的には色々な病気の専門の先生達とタイアップして、DNA検査までを考えています。このネットワークは、そう言う意味ではある程度受け皿として考えていただく。そして、まだ日本ではあまり出ていない病気、あるいは出始めている病気なども多くの先生たちや学会とのタイアップを行い、このデータに関してはすべての情報をすべての人にシェアしていきます。このデータベースは日本の犬のためにすべて使用されるのが目的ですから。

永村:陰山先生のネットワークを3つの症病以外にも受け皿にして行きたいと小川先生はおっしゃっていますが、陰山先生は何を必要としていますか?人手とかデータベース処理のコンピューターとか、何が一番必要でしょうか?

陰山:事務局はボランティアに補助していただいてます。専属の獣医師もおります。また三菱財団から助成金をいただいております。我々は非営利組織ですので、多くのブリーダーや飼い主の方に非常に影響力を持つJKCが、血統証明書にその結果を載せていただけるというのが一番重要だと考えております。JKCが世界に向けて、犬の遺伝性疾患に関して真剣に取り組んでいるということをアピールする必要があります。また、小川先生の学術団体とも完全にタイアップして活動していく方針です。

永村:ご主旨は解りました。陰山先生、JKCからの助成は必要ですか?

陰山:公正中立な組織なので助成金は大丈夫です。(笑)そう言う意味では、公正中立を保つのは最も重要なことです。もうひとつは、JAHDネットワークでは弁護士とか支援団体の方々の協力を得ています。現時点では股関節や肘などの評価結果に関してトラブルは一切起こっておりませんが、万が一起こった場合は、我々ネットワークですべて対応できるようなシステムになっていますので、ご迷惑はお掛けしないと思います。というのも、1頭の犬だけではなく、多くの犬の将来が係わっていますから、もし診断結果が間違ってしまった場合、非常に大変なことが起こる。診断結果に疑問のある方はネットワークに連絡いただいて、他の専門家の先生と協力して結果が正しいかどうかを科学的に判断していきます。弁護士とも相談し、その方法論が正しいかどうかも含めて対応できるシステムを作っています。

中澤:ネットワークでは、各エリアのどの種類のレントゲンでも全部受け付けていただいているんです。私のも受けてくれる。隣の獣医さんのも受けてくれる。国内のどこの獣医さんの写真でも受けてくれるんですね。

永村:それは、レントゲンの撮り方をきちっと普及させたと言うことですね。

陰山:そうですね。ホームページにレントゲンの撮影方法の詳細を載せています。世界的に標準の撮影方法です。また、撮影方法が良くなく評価できない場合には、もう一度レントゲンを撮影された獣医師に返送し、撮り方の悪い場所を指摘して、もう一回撮って送っていただくということも可能です。また日本警察犬協会がJAHDネットワークの結果を血統書に載せるということです。例えば、警察犬協会のデータとJKCのデータをすべて同一で互換性のあるものとして記載できれば日本の犬にとっては大きな進歩です。

神里:両方に登録している犬はありますか?

陰山:あります。

中澤:警察犬協会の血統証明書に載せられると言うことですから、是非ともJKCにおいても、載せる方向性で行っていただきたいです。

神里:欧州の大きなドッグショーの前には、必ず獣医師が犬に関するシンポジウムを併催して、愛犬家の人々にも啓蒙をされています。本会が今回、この座談会を企画し小川先生、陰山先生のお話を聞かせていただきましたが、今後もこういう形をいろいろな企画を立て、一般のブリーダーの方や、愛犬家の方に、病気に対しての理解を深めていただきたいと思います。

永村:本日は色々な専門分野から大変貴重なご意見をいただきました。もっともっと時間があれば、まだ言い足りないなあと思っておられることも沢山ありかと思いますが、今日は予定の時間も参りました。本日は沢山の良い情報をいただき大変ありがとうございました。

<座談会の出席者>
東京大学付属家畜病院 病院長 小川博之
NPO法人日本動物遺伝病ネットワーク代表 陰山敏昭
獣医師、全犬種審査員、JKC理事 中澤秀章
JKC中央犬種標準委員会委員長、全犬種審査員 五十嵐一公
一般愛犬家 宿坊登代子
JKC理事長 永村武美
司会 JKC専務理事 神里洋

注:OFA(Orthopedic Foundation for Animals)
     PRA(進行性網膜萎縮症)

Ext_link日本動物遺伝病ネットワーク



■そこで読者の皆様にお願いです

このような大きな前進を促すには愛犬家、会員の一人一人の声がJKCに届くことが後押しをします。是非、JKCに「遺伝性疾患について」の積極的な取り組みを期待していることを直接、電話やFAXで告げて下さい。

以下のように感想や質問をJKCに是非送って下さい。
●  今回の記事は参考になった。
●  遺伝性疾患削減の取組をJKCも行って欲しい。
●  欧米では診断結果が血統書に記載されているらしいが、日本も記載して欲しい。
●  次回の「遺伝性疾患について考える」を楽しみにしています。
●  どこにお願いしたら検査してもらえるのか。

社団法人ジャパンケネルクラブ 広報課 TEL 03-3251-1060、FAX 03-3251-1846

参考:JAHDのブースがドックショー会場に、興味のある方は是非おいで下さい。
        12月18日(日) FCIインターナショナルドッグショー
        主催:東京ブロック協議会
        場所:東京ビッグサイト

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