繁殖の難しさを示した二つの例

繁殖の難しさを示した二つの例

信頼していたブリーダーさんから迎入れた愛犬がどう考えても遺伝的な疾患があり、短い生涯を終えたという悲しいご報告と、かたや、明らかに遺伝性疾患を持つと思われる犬が、ペットショップで格安で売られていたというご報告です。
いわゆるプロのブリーダーが繁殖しても遺伝的な疾患のある犬が出てしまいます。無秩序な繁殖での結果は、後者のほうでしょう。
現状では、誰が繁殖しても同じような遺伝性疾患を持つ犬が売られているという証明ではあるのですが、日本で、遺伝性疾患の犬たちを減らす為には、ではどうしたら良いか考えてみましょう。
(2005/3/25)(LIVING WITH DOGS)


Sさん:
先月、4才8ヶ月の○犬種♂を亡くしました。○犬種専門の有名ブリーダーが繁殖し、有名老舗ペットショップに出した子で、○犬種界を一世風靡したアメリカチャンピオンの血を引く子でした。我が家にきた生後3ヶ月半時の体重は1.2Kg、ショップの人は「小さいけれど元気だし、名血統だから健康に問題は無い。散歩は必要ありません」と言いました。我が家ではそれまでの○犬種2匹をその人に世話して貰っており、共にとても素晴らしい犬だったので、信用してその子も買い取ったのですが、ゴハンを食べない・吠えない・ちょっと暴れるとぐったりするという、とても手のかかる子でした。食欲増進剤や高価なサプリを併用し、高タンパク高カロリーの処方食缶詰を指ですくって口に入れるという方法で、無我夢中で育ててきました。成犬になってもかなり小柄な犬でした。3才の時、余りに歯石がひどいので獣医に手術を勧められ、術前の血液検査で初めて、肝臓の異常な数値が発覚しました。獣医は「数値だけ見れば、生きているのが不思議という信じられないデータだが、この子を見る限り、そんな様子はない。つまり、これがこの子にとっては普通の状態で、生まれつきの臓器形成不全としか考えられない」と診断。先天性という言葉に引っかかり、ブリーダーに連絡を取って親兄弟の様子を聞いてみましたが「全て健康。生まれた時に不具合があれば、有名ペットショップには出せなかった(ショップも買い取らなかった)」との返事でした。それから大きな病院で再度、血液検査をしましたが、やはり「尋常では考えられない」との返事で、どこがどう悪いのか判明しないまま、真綿にくるむように大事に大事に育て、犬自身は次第に元気になりつつあるように見えました。

先月、大手のブリーダーさん達から勧められていた某有名病院に行く機会があり、再検査をして貰ったところ「肝臓そのものではなく心疾患が疑われる」と診断され、心臓のエコーを撮ろうとした時に突然、興奮して吠え(これまでただの1度もそんな声を出したことはなかった)そのまま力尽きたようにグッタリして心停止してしまいました。もちろん獣医さんには何の責任もありませんが、私としては無念でたまりません。彼は一体、どんな不具合を背負って生まれてきたのか、一流と言われる犬の血を受け継ぎ、一流と言われるブリーダーさんが熟慮して繁殖しても、このような不具合を持った子が生まれるのか?…それまでの2匹が全く医者知らずの健康犬だっただけにショックが大きく、彼の死を納得できずにいます。せめて彼の心臓が答えてくれることを望んで病理解剖に出し、回答を待っている状態ですが、このようなケースは数多くあることなのでしょうか?遺伝疾患に関する情報が欲しくて、こちらのサイトも拝見しましたが、ブリーダーの無責任(無知)な繁殖とは違うので「避けられない希なケース」ということになるのでしょうか?少しでも参考になることがありましたら是非、お聞かせ願いたく、メールさせて頂きました。よろしくお願いいたします。

LIVING WITH DOGS:
お便りありがとうございます。
そして愛犬を亡くされた悲しみを心より悼みます。
Sさんがおっしゃるように、どんなに理想を持って繁殖しているブリーダーさんでも、すべての子犬が健康に生まれるとは限りません。シリアス・ブリーダーという方々は、いつもその辺を悩んでいると思いますよ。
繁殖は、両親犬の遺伝子を6代くらいさかのぼらないとならないのでしょう。そこまで調べても、中には虚弱児が生まれてしまいます。それは遺伝学的に言っても致し方のないことなのでしょう。人の場合でも突然変異という遺伝学では解明できない症状が出る場合がありますから。
一度家族になったらこの子を精一杯愛します。Sさんに出逢い、愛されて、可愛がられて、4才8ヶ月まで奇跡的に生きられた犬だったのでしょうね。
良くここまで育てられたと思います。愛情がなければ出来ないことでしょう。Sさんに出会って幸せなワンでしたね。
かつては、その辺りを判っているブリーダーは、生まれて育たないだろうと判断した子犬は淘汰していました。近ごろのブリーダーさん達は、そのような虚弱体質で生まれた子犬も、現代の動物医療の進歩から、少しくらい虚弱でも育つ実績が出てきたため、名前があれば売れるのでショップにおろすようになったようです。このブリーダーさんがそうだとは言えませんが。ペットショップもいつも取引があって、良い仔犬を作出しているブリーダーさんだから引き受けたと言うこともあるでしょう。

Aさん:
私も生体を展示販売することに反対をしております。展示販売だけでなくネットオークションでの生体の販売にも大反対です。私は●犬種と生活をしており、たまたまここ1週間くらいの間に考えさせられることがありました。
友人の家の近くのペットショップに今まで80,000円で売られていた(昨年よりいる仔です)パピーが週末に合わせて大安売りと銘打ってたったの10、000円で販売されていました。友人は昨年からその仔のことが気になり頻繁にそのペットショップへ見に行っていたのですが、あきらかに両前足の状態がよくなかったのだそうです。そしてプルプルと痙攣もしていると。私も携帯の画像を見せてもらいましたが、携帯の画像でみても両足がO脚になっていました。痙攣の様子はわかりませんでしたが。
友人がペットショップの人間に聞いてみると、な〜んにもわかっていないようなアルバイトしかおらず、足の具合を尋ねても「悪いこと(見た目)はなんとなくわかっているけど」というような返事だったそうです。
私たちは一晩寝ないでどうしようか考え、友人(友人も●犬種を飼っています)が一時預かりという形で救ってくれることになりました。友人が行ったときには既に他の家族の胸にその犬は抱かれていました。そしてその家族の元にゆくことが決まりました。その家族は犬を飼うのがはじめてだったらしく、全て必要なものを揃えていたそうです。足のこともショップ側から「お家で運動をされればよくなるかもしれません」といういい加減な説明だったと聞いています。もう私たちにどうすることもできないので、その子が一生可愛がられてそのお家で幸せに過ごせることを祈るしかありませんでした。

LIVING WITH DOGS :
お便りありがとうございます。
Aさんのサイトで、この話は読んで知っていました。そして、購入した飼い主さんは、その後この子をどうしているだろうと考えていました。本当に何も知らずにか、ただ犬が飼いたくて安いから買ったのか?と。
その飼い主さんが、この子のおそらく遺伝的な疾患に気がついてくれることを祈る思いですね。
それにしても、ペットショップの犬たちは遺伝性疾患の犬ばかりですね。
近ごろは、目に見える遺伝的な疾患のある(腕が曲がっている、目がおかしい、等)の犬たちも平気で売りに出す始末です。もちろん格安ですが、不幸に生まれた子を助けてというように愛犬家の優しさを期待して売っているんですね。
これは確かに小さな命を消さないと言うことでは一理あるんですが、その後も同じ両親犬で繁殖したりと、どう考えてもおかしい繁殖が増えています。
繁殖については、本当に素人が手を出してはならない。また、プロのブリーダーといわれる人が一体どれだけいるのか?疑問に感じています。
日本で動物愛護法の改訂の運動がありますが、ブリーダーを免許制にという話があります。
これについては、免許を持っているから、シリアス・ブリーダーであると、免罪符になりかねない。本当のブリーダーは、これまで、どれだけ健康で美しい犬たちを作出したかなのですが。にわかブリーダーは少なくなっていくかもという期待は持てますが、でも本当のブリーダーは育たないように思えてなりません。
(2005/3/25)(Sさん、Aさん、LIVING WITH DOGS)

3月号のJKCの会報誌に日本動物遺伝病ネットワークの陰山獣医師の記事があります。
JKCのような畜犬登録団体が積極的に遺伝性疾患を減らしていく対策をとらないといつまでも、遺伝的な疾患で苦しむ犬と飼い主さんは減らないでしょう。
まずは、繁殖するプロのブリーダーは積極的に種雄、台雌の検査を受けることが必要です。
それを義務づけられるのはJKCしかありません。JKCが、日本の犬の未来を明るく出来る団体なのです。
読者の皆様も是非、JKCに期待していることを伝えて下さい。

以下のように感想や質問をJKCに是非送って下さい。

● 今回の記事は参考になった。
● 遺伝性疾患削減の取組をJKCも行って欲しい。
● 欧米では診断結果が血統書に記載されているらしいが、日本も記載して欲しい。
● 次回の「遺伝性疾患について考える、その2」を楽しみにしています。
● どこにお願いしたら検査してもらえるのか。

社団法人ジャパンケネルクラブ 広報課 TEL 03-3251-1060、FAX 03-3251-1846

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