動物孤児院 (33)実験ビーグル犬の新しい出発
実験ビーグル犬の新しい出発
何の気なしにテレビをつけると…。
牧場のような広い緑の原っぱで、男性二人が一頭のビーグルを撫でているところでした。「む?こ、これは例の実験ビーグル犬では?!」
前回の記事を書いた直後でしたから、「これは神様が見せてくれたに違いない」と嬉しくなった私。場所は、風光明媚な南ドイツにある個人経営の動物ホームでした。
そのビーグル犬は製薬会社の研究所から「不要」になって、晴れて自由の身として連れてこられたばかり。生まれて初めて野原に下ろされて、コンクリートとタイルの世界しか知らなかった彼は途方に暮れているようすです。「これ何? なぜここはひんやりしていて、ふわふわなの? ここを歩いていいの?」うなだれ、尻尾は垂れ、なかなか動こうとしません。なにしろ、草の匂いも、空の広さも(空の存在も!)、吹いてくる風も、遠くに見える馬も、森も、すぐ横を流れる小川もその犬には無縁だったのです。
「何事もゆっくり、ゆっくり教えてあげてくださいね。忍耐をもって接してください」と、動物愛護団体の人が新しい飼い主にアドバイスを与えます。やがて、やんちゃなヨークシャーテリアの子犬が現れて、呆然と立ったままのビーグル犬にちょっかいを出し始めました。「遊ぼうよ、お兄ちゃん、遊ぼう!」と子犬が誘うと、次第にビーグル犬の目に光が差してきて(というふうに私の目に映りました)、おっかなびっくり歩き始めたビーグル。そして、またしばらくすると、ついにヨークシャーテリアの子犬と一緒に野原を走り出したのです。それは感激的な第一歩でした。実験ビーグルとしての年月は終わりました。これから、ファミリーの一員として生きるすばらしい日々が始まるのです。