白雪、お誕生日おめでとう

白雪、お誕生日おめでとう

犬が社会性をはぐくむ時期はまだ眼も開かない頃から、兄弟犬と競争して母親の乳首を取り合い、生きる為の競争に勝ち抜いてたくましく育つことから始まります。先天的に障害を持って生まれた犬は、兄弟犬との競争に負け、親犬も育たないと判断した場合はお乳を与えず、自然淘汰されていたのでしょう。
しかし、現在は人が犬のお産に介在し、どんな犬も生きられるようになりました。医療が進んだことと、どうにか生きて欲しいと願う飼い主さんが増えていったことから生を全うできる犬が増えて行きました。生まれ出て命を全うできることは素晴らしいことです。どんな命も無駄な命はありません。自然界としての摂理、動物の競争倫理からはみ出てしまった犬達です。さて、ある先天性の障害を持った3重苦の犬とその飼い主さんをご紹介しましょう。白雪ちゃん1歳のお誕生日おめでとう。(LIVING WITH DOGS)


我が家は、1歳になったメスのオーストラリアンシェパードの白雪と母親のモナカ、そして10才のG.R.ミルキーと暮らしています。白雪は、生まれつき視聴覚に障害があります。聞こえない見えない子です。でもまったく見えないのではなく、光はわかりますし、G.R.のミルキーの吠える声に反応します。でも普通に呼んでも来れるわけではなく、犬の補聴器があればいいなと思っています。眼は眼球が小さく、膜に覆われ、窪んだようになってます。

この子は、生まれた時から小さくて弱い子でした。私は、この子が衰弱死しないように夜もつきっきりで授乳時は優先的におっぱいをくわえさせました。オウシーにしてはほとんど模様がなく、白が多いのは犬種的には、致命的だそうです。自然界であれば淘汰されて衰弱死している子だったかもしれません。

そして他の5匹の子達が眼が開きだしたのに、この子は中途半端な開き方しかせず、兄弟犬が貰われて行っても、この子の目は開きませんでした。あまりの成長の遅さに眼に障害があると気づき、うちで育てる事にしたのです。
同時に耳も悪い事が判りました。大勢の時は、手を叩いたら、まちまちに寄ってきましたが、白雪だけは寄ってきません。でも他の子につられて寄ってきてたのでしょう、まったく気がつきませんでした。最後の1匹になってやっと気がついたのです。以前、わたしは寝たきりのG.R.の世話していた事があります。今のG.R.の前にです。その子の時に比べれば走れるし抱いても答えてくれるし、ちゃんと躾てやろうという思いでいっぱいでした。

白雪の境遇を考えると感傷的になりますが、健常犬と比べても仕方がないし、この子は不便だけど不幸ではないと思い涙を拭って、前に進もうと考えたのです。泣いてても始まらないからです。もしこの子に精神的な異常があったら、安楽死を考えたかもしれません。

1歳を過ぎれば眼の膜を取る手術を受ける事ができますが、この眼では視力が期待できないそうなので、考えています。と言うのは庭に出れるようになりいろんないたずらをするようになると目の周りに傷をつけて来ます、草に当たるという事もあります。それでこの膜を取って眼球を出してしまうと、草などで眼球を傷付けて光さえも奪われるのが恐いからです。

そして6ヶ月の時に突然てんかんの症状が出ました。発作は今まで5回起こっていますが、いつもストレスを感じた後に起こるようです。粗相をして怒られた後や、一人っきりで不安になった後に起こります。私は、目が見えない聞こえないという彼女の立場を良く判っていない自分を責めました。この子との信頼関係をまず作らなければと、何をされても私に体を委ねてくれるくらいに。それまでもわたしは彼女の眼になり耳になってきましたが、それはまだ彼女が子どもだったからで、これからだんだんと信頼されていくだろうと思いました。
どうにか今では、目やにをとってもいやだけど取らせてくれます。いやな事をする時はご褒美をあげています。わたしは躾のご褒美におやつはいらないと思っていましたが、この子の場合だけは特別にしました。そして体の何処を触っても、びくっとして逃げるような事はなくなりました。

彼女は頭は良くて、いろんな命令を覚えてくれます。ちゃんとしつける事が出来ました。しつけなければ彼女を1日中クレートに入れっぱなしにする事になるからです。家族や他の犬達と一緒に暮らす事が彼女に生きていく意味があるからです。鼻を2回軽く叩くと前へ進め、お尻を2回叩くと戻れ、お尻を2回撫でるとお座り、待ては額を押さえる、止まれは背中を押さえるなどです。うちの敷地内ではもう勝手がわかって好きなように動けます。ぶつかったりはしますが。二階にも自由に上がったり降りたりします。

白雪は母犬と遊んでいます。というより一方的に足に噛み付いていったりという感じで、母犬は守りばっかりで、あまりに行き過ぎたりわんわんうるさいと怒ってます。とにかく眼に入って来るものに興味を持って遊ぶわけではないので、自分に当たったもの、或いは自分から移動して当たったものに対してかじったりして遊ぶわけです。
ボールは大好きですが見失ったらおしまいです。でも親犬もそれをとったりして遊んでいます。でもモナカは娘だからと我慢をしているようです。白雪はミルキーにはちょっかいを出しません。ミルキーが大好きなようでいつも近くに寝ます。

ミルキーはと言うと、歳のせいかあまり他の子とは遊びません。どちらかといえば苦手なのがまた1匹増えたと思っているでしょう。寝転がっている所へ白雪がぶつかってきても今は怒りません。最初は怒っていましたが、モナカがそれを聞きつけて怒ったので、今ではあまり気にしてないようです。ただ食べ物に関しては、白雪が先に餌を食べて、まだ食べているミルキーの近くを通っただけで、ガウッと怒ります。
犬は犬同士で暗黙のルールを作っているのでしょう。ミルキーもモナカ も白雪を別に特別扱いしている訳ではなさそうです。

ただ私が白雪を介助し特別扱いしていることで、白雪は私の次に偉いと思っているのか、ミルキーとモナカに服従をしません。順位がめちゃくちゃです。水をのむ時はミルキーは白雪に譲ります。白雪は他の子が甘えて来るとやきもちを焼いて間を割ってきます。ミルキーもモナカも白雪が障害がある事を理解していないし、私は、障害がある分白雪を甘やかしてしまったのかも知れません。
あとはいたずらをする物を探して家中を行ったり来たりしてます。最近は穴を掘って何かを埋める事を覚えました。ぜんぜん埋まってないですけど。

先天的な障害がある犬は、それを超える機能が特化されるのでしょう。 彼女の臭覚と触覚はずば抜けて研ぎ澄まされてきました。目が見えているのではと思うぐらいに私たちの行動が判る時があります。勘もいいんでしょうね。獣医さんが、他の子には無い物を得ていると思うよと言ってくれましたが、その言葉は私にとっては張り合いとなりました。

私は、白雪がこれからも犬として楽しい暮らしが出来るように白雪と一緒に考えていこうと、そして、まずは白雪に補聴器をつけて聞こえるようにしてやりたいと思っています。

自家繁殖について考える

モナカを家族に迎え入れるおりに、1、2回子どもを産ませてもらわないと譲れないと言われました。2歳を過ぎて、その約束を果たすこととなったのです。オウシーの掛け合わせで「ブルーマール同士掛けると白い児が生まれる事があるけど、大丈夫だから」と犬屋さんがぼそっと言うのを聞きました。
モナカも相手犬もブルーマールでした、そして頭の白い児は3匹生まれ、1男5女の子犬を産みました。

その時は夢中で全員が健康に育つことを願うばかりでした。そして良い飼い主に出会えますようにと祈る気持ちだけでした。まさか白雪のような現実が待っているとは思ってもいなかったのです。2匹の白い子は、白いのを承知で買ってくれたので、繁殖には使わないと思います。

しかし、あとの3匹はどこに行ったのか判らないのです。もし繁殖に使われたら同じような子供が産まれる可能性があるかも知れないのです。それを考えると心配でなりません。
今思えばすべての子を、自分の手で飼い主を探せば良かったと悔やまれます。あの頃は、次々にケンネルコフがうつって本当に育児は大変でした。私には心に余裕もなかったし、知識もありませんでした。犬屋さんもこんな児が生まれたのは初めてだと言ってました。そこもブルーマール同志の繁殖なのです。たぶん白雪のような子が兄弟にいるとは売っている場では言ってないと思います。それが現実だと思います。
そしてもうひとつの現実は、モナカの兄弟もどこかにいるという事です。私に今できる事はもう二度と同じ過ちを犯さないという事です。そしてモナカの子供達の幸せを精一杯祈るだけです。1歳の誕生日も白雪のようにこんな風に祝ってもらっているかしらと、どこかにいるモナカの子供達への思いは決して忘れることはないでしょう。(2000/08/16)(愛知県 I.SさんExt_link ぷうにぃ わんわん )


残念ながらミルキーは亡くなりましたが、白雪は無事2才を越しました。健康に長生きしようね! (2001/10/13) 

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Ext_link アルビノオゥシーの白雪ちゃん  – BUZZに白雪ちゃんのコーナーが出来ました。不幸なオゥシーが生まれないために考えましょう。
 

 

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