交通事故にあったリキ

交通事故にあったリキ

元気な犬とのお散歩は、ちょっとした瞬間に何があるか判りません。首輪がするっと抜けてしまったり、何かに驚いて急に走り出したり、飼い主はリードをしっかり持ち、この子の安全を守ってあげなければなりません。
そんな突発的な事故で半身不随となった柴犬のリキ君をご紹介しましょう。飼い主さんご家族に介護され、元気に車椅子で暮らしています。(LIVING WITH DOGS)


我が家には、2匹の柴犬がいます。6歳の男の子りきと5歳の女の子風(ふう)です。3年前の冬にりきは交通事故に遭いました。わたしは部屋でテレビを見ていたのですが、けたたましい犬の鳴き声にびっくりして外を覗きました。

すると、父に抱かれたりきが泣いていました。あわててそばにいってみると、父の顔が血で真っ赤でした。わたしは父が車に轢かれたと思い聞いてみると、「りきが轢かれた!」と。すぐに獣医の先生に連絡をとり病院に駆けつけました。

「足が折れているみたいなのですが」に、先生は冷静に「多分、脊椎を傷めていると思います。神経の麻痺を止める注射をします。」と。耳を疑いました。足が折れた…ぐらいにしか思っていなかったのに。足に力がないのは、折れていたからではなく、神経が切れていたからでした。

先生は、色々な検査をしてからでないと手術はできないとのことでした。そして先生からは「私は安楽死なんて考えていない。りきも家族も大変だけど、りきが不自由を感じないようにかわいがってあげれば大丈夫。犬は人間より適応能力が優れているし、運動能力もあるよ」と。その言葉に、みんなでがんばろうと決めました。
りきはそのまま入院。我が家にきてから、いつも一緒に寝ていたりきがこんな不安な状態で一人になると思うと、よけいに涙があふれてきました。家に帰ってからもみんな話すことも寝ることもできずに一夜を明かしました。

次の日、再び病院へ。すでにりきの検査は終わっていました。結果は、脊椎が圧迫されてずれたため神経が伸びて赤くはれ上がっているとのこと。神経の中の何本かが切れていたのです。そして肺に小さな穴があいていて、空気がそこから漏れていると。
幸い手術には問題なく、その日の夜に手術が行われることとなりました。手術が始まる前にまず精神安定剤を打ちました。薬が効いてくるとダラーとしてくるのです。6時間ほどかかって手術が終わりました。まだ人工呼吸器をつけたままのりきに対面。背中の毛をほとんど剃られ、そこにはビックリするほどおおきな傷が。

麻酔が切れて、人工呼吸器をはずしたりきはすぐに「チュー」をしてくれました。予想外のりきの元気さに手術した背中の器具がもたず、2度目の手術をすることになってしまいました。その手術も成功。
20日ほど入院するはずでしたが、あまりの元気さとうるささに半強制的に退院させられました。というのも、わたしたちがお見舞いに行くと静かなのですが、いないときはとてもうるさく、暴れていたらしいのです。

先生には「静かにできるのなら家で見てあげて」と。もちろん毎日の通院はありましたが。ふうちゃんもりきの退院にとてもうれしそうにしていました。しかし、これからが大変になるぞ! と全員気合を入れなおしたのです。

排便も排尿も自力でできなくなったため、私達も病院に通って導尿の訓練をしました。小児用の細いカテーテルを使って尿道に通し、注射器で尿を吸い取ってあげます。いまでは、家族のみんなができるんですよ。
りきも「りきちゃん、おしっこするよ」というと、ゴロンとよこになります。
でもやはり、尿道結石になってしましました。

導尿してあげても自分で排尿できないと尿道に尿が残ったり膀胱の中の尿をすべて取ることができないのです。結石を直すには食事療法しかなく、見るからにまずそうな療用食の缶詰だけを食べさせなくてはならないのです。これはもう大変でした。
車イスも誂えてもらいました。すぐにりきもなれてくれて。私達も追いつかないほどのスピードで走り、いまではベテラン選手です。周りの人もとても親切にしてくれます。

知り合いのタイヤ屋さんの方が、りきの車イスに合うタイヤを探してくれプレゼントしてくれたりも。これがまたすごくいいもので、元のものより頑丈でりきにピッタリ。たまに、自分の子供に「言うこときかなかったらああなるよ」と言われたり「なんでそんなもの付けてるの?」と興味本位で聞く人もいますがほとんどの方は、「がんばってるね」とほめてくださいます。なかには、りきを見て「えらいねぇ」と泣き出す方も……。
自分の家の犬がこういう状況になって考えさせられることがたくさんあります。

障害者のかたの気持ちも少し解かって来ました。言葉の暴力がどんなに傷つくか。バリアフリーのことももそうです。りきも散歩の途中、少しの段差でとまどっていることがあります。公園でも段差を越えられずに、スロープの方へ行ってみたり。みんなが少しの思いやりと少しの常識を持っていれば本当に環境がよくなるような気がします。
りきが今の自分の状況をもどかしく感じないように、少しでも障害があることを忘れることができるように家族全員でがんばっています。みなさん、どこかでりきに会うことがあれば声をかけてください。(2000/11/19)( 大阪府 T.Hさん)

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