3本足のSANちゃんの幸せ

3本足のSANちゃんの幸せ

自由気ままに生きている犬なんて今の日本にいるのだろうか?
紐に繋がられず、自分の意志で広い野原や町を歩き、遊びたいときに遊び、食べたいときに食べ、ねぐらには暖かいベッド、そしてたくさんの人に愛される。そんな幸せな犬が現在もいました。
人と暮らすと言うよりは共存する犬。
犬らしさをそのままに、自然の中の犬として生きるSAN!
そんな夢のような暮らしをしている3本足のSANです。(LIVING WITH DOGS)


SANは約13年前拾われました。誰が拾ったのか、どんな経緯があったかはSANだけが知っています。SANは足が三本だったので捨てられてしまったのでしょう。大学の馬術部の飼い犬として拾われました。ちょうど馬場が高尾のほうに出来るときの事です。

馬術部という部活は一般の人にはあまり知られていませんが、365日24時間活動の部活です、みんな厩舎に泊まりこみです。
人がいない事はありませんし、いつも大勢の人がいます。SANちゃんもそんな環境で育ったので多分ひとりの人に飼われてる、つまり飼い主が誰なのかといった概念はないのだと思います。

僕は家では犬や猫、はてはカラス(!?)まで飼ったのですが、SANちゃんからはまったく違ったものを感じました。僕がSANちゃんと出会った4年前、他にも普通の犬が馬場では飼われていました。飼い方もまったく異なり、飼い主がいてしっかり繋がれ、その人が引退するときは犬も一緒に帰っていきます。

しかし、SANちゃんは自分のことを犬だと思っていないのか他の犬とはいっさい交流することはありません。ただし妻のミルキーだけは違いましたが。ミルキーと子供達との楽しいもう犬だらけの時期もありました。子供達はすべてもらわれていき、ミルキーも飼い主と共に馬場を去りました。

ちなみにSANちゃんは放し飼いです。えっ? て思われるかも知れませんが、うちの馬場は城山湖周辺の敷地すべてが大学の敷地であり、ひろーーい敷地がSANちゃんただ一人のものなのです。
しかも、SANはどんなハーネスをつけても、取ってしまいます。SANちゃんはどこまでも自由で部活一の長老なのです。部員からも尊敬されています、また育った環境ゆえに人に対して一切の危害はくわえません、それどころかどんな人にも優しく接します。

「なぜ大学の部活が家族?」SANちゃんはうちの部においては完全に人権(犬権?)が保障されているんです。人と同じようにして部員と接します。家族というよりはむしろ人、馬、SANの小さなコミューンを形成していると言ったほうがぴったりでしょうか?

2年ぐらい前までは、昼間、SANちゃんを馬場で見かけることはありませんでした。馬場には夜寝るだけに帰っていたのです。それは何をしているかというと、ご近所まわりして餌をもらい歩くことです。近所の肉屋さんや、近くに法政大学の多摩校舎がありますが、そこまで行って学食のおばちゃんやら警備員の人からいろんなものをもらってきます。

学校までは道路もあり車も通っているのですが、SANちゃんはゆっくり歩くし結構でかいので目立ちます。またなぜか横断歩道しか渡りません。近所でも有名なので車も止まってくれます。他の犬を相手にしません。大学でもみんな馬術部の犬?であることを知らないで、首輪に名前があるのでみんなから「SANちゃん、SANちゃん」って人気ものです。

SANの得意わざは、突然消えてしまう事です。二日ぐらいで気がつくと山の方からしっぽを振りながら下りてきます。山に何しに行くんだろう?裏の山にはイノシシやきつね、たぬきがいます。きっとたくさんの動物の匂いを確認しに行ってるんでしょうね。

SANは決して野良や放浪犬ではありません。医療費などはSANは部員として考えられているので部からもでますし、カンパは容易に集まります。馬術部は年に何百万から一千万単位のお金がかかります、学校からの補助は僅かです。どうすると思いますか?みんなで寝る間も惜しんでバイトをするのです。

交通整理から大河ドラマの撮影まで全部お馬さんのご飯のためにただ働きです。だから、乗馬はかっこいいスポーツと思って入る人はみんなすぐに辞めちゃいます。残るのは馬気違いか、動物を死ぬほど愛している人ぐらいのものです。

獣医さんはまわりにいっぱいいますが、少しぐらいの病気、怪我ならすぐに馬場にあるもので治療が出来るんです。

僕はもうすぐ卒業です。この馬場から去らなければなりません。SANは僕が卒業しても馬場にいるでしょう、SANを馬場から動かす事はSANのためによくない事は誰もが周知の事だからです。みんなにかわいがられ、自由に散歩できるSANにとって、馬場は最高の楽園なのです。
SAN専用のストーブだってある、人は寒さで凍えそうなのに…。だから、SANを僕の犬として独り占めは出来ないんです。馬場こそがすみかなのです。たぶん彼を東京の雑踏の中に置いたらそれこそすぐ死んでしまうでしょうね。

SANはこれからも馬術部の長老としてみんなに大事にされて、暮らしていくことでしょう。

SAN! 楽しい4年間! ありがとう。長生きしろよ! (2001/03/09、東京都・F.Aさん  )

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